結婚で貯金が尽き、お金をかき集めて投資の道へ
一般企業に勤務する30代の小和田美穂さん(仮名)は現在、資産約9000万円ほどを築いている(第1回参照)。実家はいわゆる中流家庭で、親から莫大な資産を与えられたわけではない。そんな彼女も、約10年前の結婚を機に貯金がほぼ底を尽きる経験していた。そのときの年収は600万円弱。女性がその後大きな資産を形成できた背景には、その鉄の意思で続けた生活における指針があった。
人によっては息の詰まる生活に見えるかもしれない。けれども彼女がそれを成し遂げられたのは、単なる“ケチ”からかけ離れた、時間に対する強烈な執着があった――。
小和田美穂さんは一流大学を卒業し、入社した一般企業で出会った男性と2017年に結婚した。結婚式を挙げるための費用などがかさみ、それまで貯めていた金額は大きく目減り。手元には50万円ほどしか残らなかったという。一方、2018年に転職を経験し、前職の退職金250万円程度が入ると、先の50万円と合わせて本格的な投資を始めた。
現在では小和田さん年収1000万円程度、夫年収1100万円程度のパワーカップルに成長したが、結婚当初は小和田さん年収600万円弱、夫年収600万円程度。親から資産を受け継いだわけでも、突出した報酬を得ていたわけでもなく、一般的な会社員夫婦だった。そしてその年収の時点で、ビジョンを持って資産形成に乗り出している。
コンビニは“コピー機だけ”、スタバは“ご褒美で年2回”
本格的な投資を始めてから8年という短期間に、夫婦あわせて、世帯全体で9000万円もの大きな資産を築き上げることができた(第1回記事参照)のは、一般人と隔絶した高い年収によるものなどではない。むしろ秘密は、小和田さんがこつこつ書き溜めている家計簿にあった。家計簿を見ると、その行動指針がみえてくる。ときに、何を買ったかはもちろん、「何を買わなかったか」「どこを抑制しているか」さえも示してくれる。
小和田さんの場合、「ここにはお金を落とさない」という徹底したこだわりが読み取れる。まずコンビニの使用頻度が極端に少ないのだ。指摘すると、「コンビニには月2回程度しか行きません」と頷いた。
「コンビニに行くときはコピー機を使用するときくらいです。あとは、子供のためでしょうか。コンビニ限定のお菓子を購入する場合には立ち寄ることがあります。先日、子供が『喉が乾いた』とコンビニの前で言ったのですが、もう少し離れたスーパーには50円くらい安く同じ飲料水が売っているので、そこまで一緒に歩きました」
もちろん、子供に倹約を強いる以上は、母としてそれ以上の姿勢でいなくてはなるまい。
「現在、ほとんど物欲はなく、学生時代に好きだった洋服などの趣味もぱたりと消えました。物色の対象が株式になったからかもしれません。昔は『スタバの新作を飲みたい』という感情もあったのですが、以前知人から『飲まなくても死なないじゃん』と言われて妙に腑に落ちてからは、あまり行かなくなりました。年に2回くらい、『この日は散財しよう』と決めた日があって、そのときには“ご褒美”的にスタバに行くことはありますね」
インスタ広告は即ブロック、YouTubeは“あえてプレミアム”
スタバに限らず、世は“インスタ映え”全盛の時代だが、小和田さんは鉄の意志で魅惑の情報を遮断する。
「近年は、何かを調べるとそれに関連した商品がたくさん広告に表示されることがありますよね。特にインスタのアルゴリズムは優秀だなと思うのですが、『広告が多いな』と感じたら迷わずフォローを外します。
また、これは遮断が主な目的ではありませんが、わが家では見たい地上波の番組は録画して見ることにしています。宣伝を飛ばすことができて、時間短縮にもなるからです。同じ理由で、YouTubeも広告を見ないためにプレミアム会員になっています。もちろんプレミアム加入は有料になりますが、結果として宣伝を避けることができるので余計な物を購入しないで済みますし、何より時間が圧縮できるのでパフォーマンスがいいと感じるからです」
徹底した時間管理は広告のブロックだけではない。お金持ち=贅沢な過ごし方をしているイメージを勝手に抱くが、それらにも一切興味を示さない。
「子供がいることもありますが、エステなんかは全く行きません。化粧品は月に1万~2万円程度でしょうか。車も、維持管理の手間や乗る頻度を考えるとわが家にはいりませんね」
わが家のルール「お友達がやっていることはOK」
そもそも小和田さんの家庭は、外食も極端に少ない。基本的に夫が料理を担当し、ほとんどが自炊だ。自宅近所のショッピングモールに繰り出して、フードコートで食事をすることが月に2回ほどあるのだという。
小和田さん個人は、めったに飲み会などもしない。むしろ「会社での飲み会は極力避けたい」と率直に話す。前述の通り2018年に転職を経験した彼女は、その採用面接において「なにか質問があれば」と逆質問を促され、「飲み会の頻度はどのくらいでしょうか」と聞いたほどだ。幸い、小和田さんの仕事は原則フルリモートであり、社員が一堂に会する機会はほぼない、彼女にとって理想的な職場だった。
しかしここで疑問が湧く。出費に無駄がなく理想的にも思える一方で、子供中心の生活を送る主婦として、子供からの“おねだり”はどう捌くのか。たとえば先ほどのショッピングモール。子供が直線的にフードコートに行くことはまずあり得ず、途中に“誘惑のカプセルトイコーナー”があろう。だがそれについても、小和田さんは明確な指針を持っている。
「わが家では、ルールを決めています。『お友達と一緒にいるときに、お友達とガチャガチャをやる機会があれば、やろうね』と聞かせています。友達と一緒にいるのにできないのはかわいそうなので……。ただ、幼い頃からあまり細かいものを買い与える習慣がないので、子供はそこまで執着していないようにみえます。本当に欲しいもの、大きな買い物は両家の祖父母が買ってくれるので、小さな物欲があまりないというか。
財布にあまり現金を持たない私のことを、子供たちは『あまりお金を持っていない母親』だと思っているはずなので、おねだりされることは一般的な子供よりも少ないかもしれません」
シールを探し回るくらいなら「フリマサイトで買う」
生活の無駄を取り除く小和田さんの一貫した行動に、一見すると矛盾に思える部分があるのも面白い。無駄の極致とも思われがちなはやり物も、子供の学校生活における立ち位置に必要だと感じれば、惜しみなく買うのだ。ときに定価以上の費用をかけて購入することもあるという。
「子供が通う学校ではシール帳が流行していて、シール交換を楽しんでいるようです。近年、シールが品薄になっていて、フリーマーケットサイトに転売する人が後を絶ちません。だいたい500円くらいのシールを1000円で売っているのですが、この程度なら迷わず買います。それは、差額のためにいろいろなお店を探し回る労力のほうが高く付くと考えるからです」
意外な一面を見せたシールの件からもわかるように、あくまで小和田さんの行動指針は子供中心。子供が興を惹かれるものを制限したことはない。
上の子供は小学校低学年だが、バレエ、スイミング、ピアノに通わせている。毎月の月謝は3万円ほどだ。このほか、子供が「読みたい」といえば絵本は惜しみなく買い与え、自宅には絵本がたくさん並んでいる。「読みたい本があったら、大人は基本的に図書館で借ります。株式投資を勉強するときの基本書も、私は手元に残しませんでした」と苦笑いした。
家族に向き合う時間が増えて楽しい
小和田さんの生活は、消費欲や購買欲を刺激するこの社会では奇異に映るかもしれない。事実、筆者も思わず「その生活って、楽しいですか」と礼節を欠いた質問を投げかけた。彼女はそんな筆者に対して腹を立てるでもなく、「もうこの生活が日常になっているので、節約を楽しい楽しくないで考えたことはないのですが」と前置きしたあと、こう答えた。
「理由を上手に言語化できないのですが、自分に物欲がなくなっていくにしたがって、家族と向き合って過ごせる時間が増えているような気がします。その時間は楽しいです」
大切なことはおそらく、支出の無駄を無理に洗い出すことでも、巨額の資産を築くことでもない。誰しも時間は有限なのだ。大切な存在とよい時間を過ごすために、自分たちに必要なことと不要なことを選別し、指針を持って生活を舵取りしていくことなのではないか。