親の介護費用はどう準備すればいいのか。ファイナンシャルプランナーの高山一恵さんは「親の介護は親のお金でするのが基本だ。介護が問題になるケースの多くに、コミュニケーションの欠如が見られる」という――。

※この連載「高山一恵のお金の細道」では、高山さんの元に寄せられた相談内容を基に、お金との付き合い方をレクチャーしていきます。相談者のプライバシーを考慮して、事実関係の一部を変更しています。あらかじめご了承ください。

青空の下を散歩する2台の車椅子
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「他人様のお世話になるなんて」

昨年、団塊の世代にあたる約800万人全員が75歳以上の後期高齢者となり、「2025年問題」が顕在化しています。

そこで、現在50代なかばの団塊ジュニア世代がぶち当たる“親の介護”の現実と、親子が最期の瞬間まで幸せな関係を続けられるポイントをお伝えします。

同居していた80代のお母さんに介護が必要になったことで「人生が一変した」と語るのは、鈴木千佳子さん(53歳/仮名)。新卒から地元の会社に勤め、会社としては女性初となる部長職まで務めたキャリアウーマンです。年収は約700万円で、貯金は1400万円。結婚も考えていましたが、仕事に邁進しすぎて機会を逃していました。

しかし、80歳を超えて急激に体力の衰えを訴えるようになった母をそばで見てきたことから、これからの自分の人生を考えて婚活に力を入れようとした矢先、お母さんが倒れてしまったのです。

働きに出ている娘に代わって家事を担ってきたお母さんでしたが、トイレやお風呂といった自分の身の回りのことをこなすのも難しい状態に。鈴木さんはすぐさまヘルパーの手配に動こうとしましたが、「他人様のお世話になるなんて!」と、お母さんに介護の外注を完全拒否されてしまいます。

正社員の職を手放してしまった

結論から話すと、鈴木さんはお母さんの介護に専念するために、正社員の職を手放しました。もともと真面目な方なので、「これまではずっとお母さんが自分を支えてくれた。今度は自分の番だ」と介護離職に踏み切ったのですが、現実は厳しいものでした。

まず、お金の問題です。これまで手取り約45万円あった収入が一切なくなり、頼みの綱はお母さんがもらっている月10万円の遺族年金のみ。持ち家だったことは不幸中の幸いでしたが、おむつ代や医療費もかかります。また、国民健康保険といった自分の社会保険料や税金の支払いもあり、毎月、貯金を切り崩すことになってしまったのです。

最初こそ意気込んでいた鈴木さんでしたが、終わりの見えない介護に疲弊し、置き去りになった結婚やキャリアのことを考えては、その鬱憤を母にぶつけてしまうようになったといいます。

介護と仕事を並行できる方法を探す

介護離職された後にご相談を受けたので鈴木さんのケースではどうしようもなかったのですが、自身の経済的基盤を失うと今後の人生に大きな影響が出てしまうので、ここは最も慎重に考えていただきたい部分でした。

離職する前に、介護休暇などを利用して落ち着いて整理する時間を持ち、将来を見据えて働きやすい環境の整った企業へ転職するなど、介護と仕事を並行して続けられるようにするのが大切です。介護休暇は1日など、短い日数でも取得ができます。長期にわたって職場を離れなくて済むため、介護に向けた体制を整備するのにも使いやすいでしょう。

また、介護そのものについては、地域包括支援センターなど、第三者を入れて介護の相談をするのが第一歩です。プロにつながることでニーズに合ったサービスを紹介してもらえますし、これまで頑なだった方も、他人からのアドバイスだとすんなり受け入れられるといったこともあります。当事者だけで解決しようとせず、さまざまな相談窓口を頼ってみて下さい。

実家に月5万の仕送りを続ける夫に三行半

シングルの方だけでなく、ご夫婦で介護に悩んでいる方のケースもご紹介します。鳥居達也さん(55歳/仮名)も80代のお母さんの介護中ですが、それにより、熟年離婚の危機に陥ってしまったのです。

鳥居さんのお母さんは東北で一人暮らしをしているのですが、介護が必要になった時から「お母さんに不自由をさせたくない」と、毎月5万円の仕送りを開始。しかしこれが妻の怒りを買ってしまったのです。

というのも、鳥居夫妻には高校生の一人息子がおり、お金がかかる時期でしたが、妻に相談することなく5万円の仕送りを勝手にはじめたそう。妻は最初から不満を覚えていたそうですが、年収約700万円の夫に対し、自身はパートで数万円しか稼いでいないという負い目もあり、なかなか言い出せませんでした。そして鳥居さん自身も「俺の金で援助しているんだからいいだろ」と開き直っていたところ、遂に妻が爆発。離婚を突きつけられてしまったそうです。

男女間のけんか
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実際、鳥居さんの手取りは約45万円で、住宅ローンや教育費の支払いなどもあり、妻のパート代と合わせてもそこまで余裕はありません。また仕送りだけでなく、鳥居さんは月に何度もお母さんの様子を見に東北へ帰省していたので、交通費やその際に渡すお土産代などもかさんでいました。

問題の根幹は「コミュニケーション」

離婚を伝えられたことで我に返った鳥居さんが慌てて私のもとに相談にきてくれたので、改めて5万円の根拠をお聞きし、本当に必要な支出かどうかを精査。お母さんの年金と合わせて介護費の見直しをしたことで、仕送り費用を抑えることができました。

金額のことはもちろんですが、パートナーの方とのコミュニケーションを軽視して進めたことが問題の大きな部分を占めていると思うので、改めて家族で話し合ってほしいということもお伝えした次第です。そしてお母さんの介護のために離職した鈴木さんのケースもまた、コミュニケーションが問題の根幹にあると思います。

介護が“問題”となるケースの背景には、往々にして家族間の話し合いの欠如があります。長らく病気で患っていた場合などを除き、誰もがある日突然、親の介護に直面するでしょう。その“いつか”のために、皆さんに覚えておいていただきたいことをお伝えします。

「親の介護は親のお金で」が鉄則

まず大前提として、「親の介護は親のお金でまかなうこと」を心がけてください。多くの親は子どもの幸せを願っていますから、基本的に、子どもに面倒をかけたくありません。そのためにも、特に親御さんから、「面倒なこと」ほど口火を切って話し合っていただきたいのです。

具体的には、自身の資産状況を子どもに伝え、もし介護が必要になった場合、自分はどんなサービスを受けたいのかをシェアしてください。資産状況と受けたい介護の内容がわかれば子どもも判断がしやすいですし、自分たちに求められることもわかります。

若いお客様の中には、「私は一人っ子で遅く生まれた子だから、親の介護のために貯金をしている」というお話しをされる方も少なくありません。これとは逆のパターンで、「うちの親は裕福なんで」と油断していたら、親は資産もなく保険も未加入で、葬儀代も自分持ちになってしまったという方も見てきましたので、夢やライフプランを大事にするという意味でも、親子で話し合ってほしいなと思います。

居間で会話する老人と若者
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「今後の話」をする絶好のチャンス

親の介護を親のお金で賄いきれないばかりか、親のわがままに振り回されて悲惨な別れ方をされるケースもあとを絶ちません。長年親の介護をしてきた方から、「やっと死にましたよ」と聞いたときには、本当に悲しい気持ちになりました。経済的にも精神的にも介護で追い詰められていたことは存じ上げていたのでなんと返していいかわかりませんでしたが、子育て中の私自身、身につまされる思いでした。

そんな経験から、私は子どもがもう少し大きくなったら資産のすべてを開示して、「私が動けなくなったらこうしてね」という希望を伝えておこうと思っています。

とはいえ、なかなかお金の話、ましてや最期の話にもつながることなので言いづらい方もいるかと思います。最近、たまたま親子で介護の映画を観たことをきっかけに遺産相続の話や今後のことを話すことができた、という方がいました。映画に限らず、テレビなどでも介護の特集は定期的にやっていますので、そういった機会を捉えて徐々に親子でコミュニケーションを取ってみるのもおすすめです。

実際、親の介護を親のお金で完結できた方が、気持ちよく家族に見送られているケースが多いと感じます。子の幸せを願うすべての親御さんにはぜひ今日から少しずつ、お子さんにご自身の今後についてお話ししていただけたら幸いです。