
D&Iを「経営戦略」として実装する
グローバルで150カ国、5万人以上の従業員を擁する同社が、成長の基盤として重視しているのがD&Iだ。
「世界中の誰もが願う、豊かで快適な住まいの実現。それを本気で目指すなら、まず社内がインクルーシブでなければならないと考えています」
日本人事総務オペレーション統括部長の中井辰夫さんはそう語る。世界中に顧客がいるLIXILにとって、年齢や性別、家族構成はもちろん、ライフスタイルすべてにおいて多様なニーズへの対応が求められる。そこに応えるためには、さまざまな経験や視点を持つ多様な従業員とその能力を存分に生かせる環境づくりが欠かせない。
「だからこそ、LIXILではD&Iを単なる数値目標の達成ではなく、イノベーション創出につなげる経営戦略として位置付けています。私たち人事は、グローバル人事戦略(GPO Strategy House)としてLIXILを革新的でインクルーシブな組織へ改革するミッションを持って取り組んでいます。また、『制度はあるが使いにくい』という状態をなくすため、現場に根づく文化醸成にも力を入れています」
こうした考えのもと、障がいのある従業員やLGBTQ+の従業員が働きやすい職場環境づくりなどを希望する従業員が主体的に活動する従業員リソースグループ(ERGs:Employee Resource Groups)を立ち上げるなど、インクルーシブな企業文化の定着に向けた施策を数多く打ち出している。
さらに、それらの取り組みの一つとして、女性活躍の推進にも力を入れている。フレキシブルに働ける環境整備に加え、男性の育休取得も積極的に推進。育児休業は子どもが3歳になるまで取得可能とし、早期復帰を希望する社員には最大4時間の時短勤務を認めるなど、段階的に働ける仕組みを整えている。こうした取り組みが評価され、女性活躍推進に優れた企業を経済産業省と東京証券取引所が共同で選定する「なでしこ銘柄」にも選ばれている。
「重要なのは『一律』ではなく『選択肢』を用意している点です。早く復帰したい人も、ゆっくり育児に向き合いたい人も、どちらも尊重される制度設計にしています」
そう話すのは、Human Resources日本人事総務オペレーション人財開発部の人財開発グループリーダーを担う小林真理さん。
小林さんは人事として制度づくりに携わっているが、もともとは技術系出身。2002年に新卒で入社し、最初に配属されたのはサッシ建材工場での現場加工・生産管理だった。その後、自ら希望して本社へ異動し、生産本部・生産管理部門で複数工場を横断する改善業務を担当した。
「経験を積む中で、現場、営業、事業といった全体の流れに興味を持つようになり、そのたびに目指すポジションも変わっていきました。上司や人事部に自分の希望を伝え、それを叶えてもらってきたことが今のキャリアにつながっています」
一方で、結婚、出産というライフステージの変化もあった。育児と仕事の両立に悩みながらも制度を活用し、職場に復帰した経験が業務に生かされている。
「自ら立ち上げた社内の育児コミュニティ活動を通して『制度の認知・活用不足』という課題に気づき、制度と文化の両面から組織を変えたいと考え、人事へ異動しました」
理念が“自然に機能する”組織へ
LIXILでは現在、従業員意識調査を実施し、従業員エクスペリエンスの指標の一つに「インクルージョンスコア」を設定している。管理職向けにはD&I推進ガイドブックを作成し、すべての管理職にワークショップを実施。理念を掲げるだけでなく、「どのように行動すべきか」まで落とし込むことに重きを置いている。
さらに近年、力を入れているのがキャリア開発支援だ。一人ひとりの「キャリアジャーニー」を尊重し、年に一度、自身の考えや希望を申告するキャリア申告制度を運用している。小林さんのように主体的にキャリアを形成していく従業員を1人でも増やしていくことが、同社の目標だ。
「理想は、D&Iの専門部署や特別な施策がなくても、自然にインクルーシブな状態が保たれる組織になることです」
中井さんはそう締めくくる。形骸化しない制度とそれを機能させる文化。その両輪が、多様な従業員の力を引き出し、ひいては顧客への価値創造へとつながっていく。