物件を比べるほどグレードの高い家が欲しくなる
長年、景気低迷が続いていた日本だが、経済政策効果や東京オリンピック、はたまた消費税アップの影響もあって、マイホームを購入したい人が増えている。週末ともなると、マンションのモデルルーム見学の予約はいっぱい、戸建ての住宅展示場には屋台まで出ているところもあり、ちょっとしたお祭り状態だ。
マイホーム探しは基本的には楽しい。だからこそ、この雰囲気に飲まれ、資金繰りよりも先にモデルルームに出向いてはいけない。「話を聞くだけ」という気持ちで行っても、先方は売る気マンマン。最近は、売り手も強気で、「あなたが買わなくても、すぐに売れちゃいますからご心配なく」との態度で、買い手の気持ちを煽ってくる。
たしかに3000万円と4000万円の物件を比べたら、それはグレードの高い家が欲しくなるに決まっている。それでなくても、最近の新築マンションは高級ホテルのような雰囲気で、本当にステキ。狭い土地に建つ3階建ての戸建てにしても、ハイソな家庭が築けそうなデザイナーズ物件のような印象だ。ステキな物件を目の前にすると、誰でも「欲しい」「買いたい」との思いが先に立ち、比べるほどにだんだんとお金の感覚がマヒしていくのだ。
マイホームは借金をして買うことを忘れないで欲しい! 身の丈に合わない物件を買うために多額の借金をすると、長期間、家計が苦しくなり、最悪の事態では家計破綻になり、家を売るなんてことになりかねない。実際、高すぎる物件を購入したあと、世帯収入の変化や子どもの教育費増大でローン返済が滞る人が少なくないのだ。
「数字のマジック」にだまされないで!
ここで数字のマジックを紹介しよう。変動金利で、現在の金利が1%、返済期間35年、借入金額3000万円なら、毎月の返済額は8万4684円。これが、マイホームを購入しても“返済額は家賃並み”のマジックだ。不動産会社の営業マンなら、「家賃を払うなんてもったいない。その分でマイホームを手に入れることができるのに。頭金を少し足して、ボーナスでも返済すれば、今なら4000万~5000万円のマイホームも夢ではありませんよ」というかもしれない。
しかし、変動金利がこの先35年間、ずっと1%とは考えにくい。
さらに、35歳の人が35年ローンを組んだとしたら完済年齢は70歳。普通に考えて、65~70歳の間は年金からローンを返済しなければならない。それでなくても、年金がアテにならない世代だというのに……。
ならば繰り上げ返済すればいいじゃないか、と思うなかれ。最初から繰り上げ返済をアテにして組んだローンは、繰り上げ返済ができなかったらオーバーでなく家計が破綻だ。それでなくても繰り上げ返済をする将来の自分自身をアテにしていいのか? 給料が35年間、安定していることをアテにしていいのか?(公務員の人は給料をアテにしてOK)。子どもは費用の安い国立大学に入学してくれるのだろうか?
「わが家の実力」で買える価格を計算しよう
そこでズバリ! “わが家の実力”で買える物件価格の目安を出してみよう。
それは「今の家賃」と「1回当たりのボーナスの余裕資金」と「頭金」から算出できる。
まずは表を使って「借入限度額の目安」を知ろう。横軸の「毎月返済額」に現在の家賃、縦軸にはボーナスから払える金額を当てはめて欲しい。現在、返済できる無理のない数字として、金利は全期間固定2.2%で、返済期間30年で計算している。購入価格の目安を出すときは、この表でわかった借入限度額の数字を守らないとダメ!
毎月の返済額が10万円で、ボーナス1回につき10万円(年間20万円)の場合は、3070万円の物件価格なら安心。それはあなたが今、欲しい物件の価格と比べて少ないかもしれない。あとはプラス・オンで頭金がいくら出せるか、だ。もし住宅ローンの頭金に500万円を出せるなら、3570万円の物件が買えることになる。
念のため、マイホームを購入する際には、物件価格に加えてあれこれ諸費用もかかる。諸費用の目安としては、新築なら物件価格の3~6%、中古なら6~9%の現金が必要だ。つまり、頭金のほかにもこれだけの貯金が必要ということ。また、マイホームを持つと、マンションなら住宅ローンのほかに管理費や修繕積立金を納め、戸建てなら自前でリフォーム資金の積み立ても必要。さらに毎年、固定資産税がかかることもお忘れなく。
結論として、マイホームが欲しいと思ったら「買える物件価格を出してから、物件を見る」の、順番を守ること。安心して暮らせる資金と、メンテナンスの行き届いたマイホームがあってこそ、住宅ローン完済間近の“老後”が安泰となるのだから。
広告代理店、出版社にてサラリーで働くエディター、ライター、プランナー、コピーライターを経てフリーに。得意分野は投資、住宅関連。大ブレイクはしないけれど、仕事は堅実でハズさない。満を持して2008年に起業。個人投資家としての投資歴は15年選手(ちょっぴりプラス)。