「無借金経営」で営業利益率は46%

日米の歴史的な金融緩和に伴うカネ余り相場から、企業の成長力を買う業績相場への移行が円滑に進むかどうかが関心を集めている株式市場で、再び注目されている会社がある。新製品の投入や海外向けの売り上げ拡大をテコにリーマンショック後初めて“実質過去最高益”を更新した東証一部上場の「産業用エレクトロニクス」メーカーのキーエンスだ。同社は、工場を持たない「ファブレス経営」や、値引きをしない「コンサルティング営業」が特色の企業である。そこで取材してみると、ユニークな経営ゆえの強さと危うさが浮かび上がってきた。

まず、過去数週間を振り返ってみよう。転機となったのは5月8日の決算発表だ。5年ぶりに過去最高益を実質的に更新したことを発表し、折からの株価の上昇に弾みを付けた。そして、直近の株式相場の天井に先駆けて、5月16日に3万5100円と10年来の高値を記録。さらに6月18日には、立体物を造形できて急成長が見込めるとされる3Dプリンターの発売を開始した。キーエンスは以前の勢いを取り戻したかのような印象を受ける。

決算短信によると、回復の原動力は、超高速・超高精細な測定機や、工場の配線を整理して配電トラブルを減らすセーフティライトカーテンといった新製品の投入だ。野村証券のアナリスト野口昌泰氏の調査レポートは、そうした新製品は前期より5機種多い15機種に上ると指摘している。新製品は、高い利益率を生む同社の「コンサルティング営業」に不可欠の商材とされる。

また、国内の売り上げが低迷する中で、海外向けの売り上げがカミカゼになった面も見逃せない。同じレポートによると、海外売上比率は39.5%と前期比で8.1ポイントも伸びた。

こうした戦略は過去の延長線上にあるもので、それを回復に繋げたことは、実に同社らしい。キーエンスは、消費財を扱っているわけではないので、知名度は高くはない。だが、リーマンショック前は、経済誌が競って、工場を持たないメーカーとして、あるいは従業員の平均給与が1300万円を上回る“高給”企業として、そのユニークさを取り上げる話題の企業だった。