本当に伝えたい内容があるか

作家の高橋源一郎さんは、あるエッセイのなかで次のように書いている。

「現在、もっとも文章がうまい人は誰か、と訊ねられたら、ぼくは、スティーブ・ジョブズと答える」(ぼくらの文章教室第3回「小説TRIPPER」)

そして引用しているのがスタンフォード大学の卒業式で語った有名なスピーチだ。講演として話されたジョブズの言葉は、優れた「文章」としても読める、という意味である。

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ジョブズのスピーチ原稿
■スタンフォード大学の卒業式で語ったスピーチ

(1)話すことを3点に絞る
内容が、本当に言いたいことだけに絞られている。また冒頭で「3つだけです」と伝えることで、聴衆の集中力を維持できる。

(2)各章にタイトルがある
最初に何の話をするかを宣言することで、注目を集められる。

(3)自分のエピソードを語る
人生観や世界観がにじみ出たスピーチに、人々は共感する。

(4)メッセージをまとめる
人生経験で学び取ってきたこと、すなわちエピソードを語ることで伝えたかったことを短い文章に凝縮させている。章タイトルとメッセージの間にエピソードをはさむ「サンドイッチ形式」で、聴衆の心を掴む。

このスピーチは、アップル社の優れた製品とともに、ジョブズの作品として世界中に深い感動を残した。『スティーブ・ジョブズ 驚異のプレゼン』の解説を書いたエバーノートKK会長の外村仁さんは語る。

「プレゼンで誰もが陥りやすいのは情報過多です。ジョブズはスピーチの冒頭で3つの話しかしないと伝えます。自分の人生から学んだことを語るのに、たったそれだけに絞り込んでいる。言いたいことを捨てる“引き算”をすることで、シンプルでパワフルな内容が際立ってきます」