TOPIC-2 掃除とビジネスが出合った年

掃除・片づけと自己啓発の結びつきを探ろうとすると、たとえば原始仏教の時代における周利槃特(しゅりはんどく、掃除で悟りを開いたとされる人物)、掃除を重視する禅宗の修行生活、世界の各宗教に共通する「けがれ(穢)」の観念、「みそぎ(禊)・はらい(祓)」を重んじる神道といった宗教の世界にまで行き着いてしまいます。これらは非常に重要な背景だとは思うのですが、あまりに果てのない話になるので、ここでは書籍上の言論動向に絞って、掃除・片づけと自己啓発の結びつきを追っていくことにします。

掃除・片づけが自己啓発と結びつけられるようになった潮流には、大きな流れが二つあります。一つは企業経営者による掃除論で、もう一つは女性向けの家事に関する書籍です。今回はまず経営者の方からみていくことにしましょう。

珍しいパターンだと思うのですが、掃除と自己啓発が結びついた時点は、特定することが可能だと思われます。それは、致知出版社から出た3冊の著作が、互いに参照し合いながら掃除の効用を説き始めた1994年です。

刊行された順で並べると、9月に日本経営システム相談役(当時)の浅野喜起さんによる『喜びの発見』と松下政経塾常務理事・副塾長の上甲晃さんによる『志のみ持参』が、次いで11月にローヤル社長(当時。現イエローハット)の鍵山秀三郎さんによる『凡事徹底』が刊行されています。

論じられていることは大きく2点で、一つは、未来の政治的リーダーを育てる松下政経塾において、掃除が奨励されていたことについて。もう一つは、掃除を企業文化として根づかせ、松下政経塾での掃除実践にも大きく影響を与えた鍵山さんの人生とその考え方についてです。