モハメド・エラリアンMohamed El-Erian

世界最大の債券運用会社、ピムコ最高経営責任者(CEO)兼共同最高投資責任者(Co-CIO)。国際通貨基金(IMF)、ソロモン・スミス・バーニーなどを経て、ピムコに入社。その後、米ハーバード大学基金を運用するハーバード・マネジメント・カンパニーのトップを務め、2007年末にピムコに復帰。オックスフォード大学大学院にて経済学博士号、ケンブリッジ大学にて学士号を取得。

――世界各国がこれまでに打ち出した危機対応策は不十分だったというわけですね。

各国政府は大胆な対策を実施しているのは確かです。ですが、危機が世界へ伝播していくスピードがあまりに速く、政策対応が常に後手に回っています。そのため「ツー・リトル・ツー・レイト(小さすぎ、遅すぎ)」に陥っています。

私がIMFに所属していた1997年、アジア金融危機が起きました。その時もやはり「ツー・リトル・ツー・レイト」でした。タイや韓国、インドネシアの政策担当者は当初「危機? 何のこと?」といった反応を示していました。本当に危機に直面していると認識できるまで、非常に長い時間がかかり、結果として対応が遅れました。

これは、いわゆる「ブラックスワン(黒鳥)」現象に当てはまります。人間はブラックスワンを目撃すると、「黒い白鳥が存在するはずはない」と決めつけ、見て見ぬふりをする傾向があります。これまでの常識を覆すような異常に直面すると、「一時的な現象。いずれ元に戻る」と見なそうとするのです。過去に経験したことがないような危機もブラックスワンに相当し、「政策ミス」を誘発します。

ブラックスワンに出合うと、政策当局は一般に4段階を通過しなければならず、時間がかかります。第1段階は、危機の認識です。これが容易ではありません。過去に深刻な危機を経験したことがないと、危機の見極めはなおさら難しくなります。危機を認識すると、第2段階に移ります。ここでは正しい政策を立案します。次の第3段階は、立案した政策を実行する段階です。最後の第4段階では、実行した政策が効果を生みだすまで待たなければなりません。第4段階に到達するまでに、危機はどんどん増幅し、早期収拾は不可能になりかねません。