アナウンサー・コンサートソムリエ 朝岡 聡

1959年、横浜市生まれ。慶應義塾大学卒業。テレビ朝日アナウンサーとして「ニュースステーション」、各種スポーツ中継などを担当。95年にフリーとなってからはテレビ、ラジオ、CMのほか、コンサート・ソムリエとしてクラシックコンサートの企画構成や司会で活躍中。特に古楽とオペラではユニークな評論が注目を集めている。ミラノ、ウィーン、パリなどを取材し、自ら撮影した写真とエッセイでつづった『いくぞ! オペラな街』(小学館)が好評発売中。


 

もともとクラシック音楽好きですが、ここ10年は本場イタリアで観るオペラに夢中です。オペラは音楽であり演劇であり、文学でもある。すべての楽器のルーツは人間の声ですから、あの歌声を知るとオーケストラの演奏を聴く耳も研ぎ澄まされてくるんです。

最近は趣味が高じて、クラシック・コンサートなどで司会をするだけでなく、「オペラ・ソムリエ」と称してオペラの解説やトークをしています。オペラはイタリア語がわからないとさっぱり意味がわからないけれど、ストーリーや曲の表現する心情を事前に知っておけば、もっと深く楽しむことができますからね。

そのきっかけになったのは、来日したトリエステ歌劇場によるロッシーニの「タンクレディ」。実際に劇場で見るとCDやDVDとは臨場感がまったく違う! 以来「イタリアで生まれた芸術は、やっぱりその場に行って見なければ」とイタリア各地に行き始めました。すると食べ物も人々も文化もすっかり気に入ってしまい、今は最低でも年に一度はイタリアの空気を吸わないと気がすまない。特に8月のロッシーニオペラ祭は毎年欠かさず行っています。

そういうわけで向こうの味に慣れると、東京のイタリア料理店が少々物足りなくなります。ところがこの「ステファノ」は、イタリア人シェフならではの味。彼の出身地であるヴェネツィア地方の料理が食べられるので、何年も通っています。

イタリアンと一言でいっても、実はイタリア料理ほど地方によって特色があるものはない。たとえばヴェネツィアに行くと、バーカロと呼ばれる立ち飲み居酒屋が100軒以上あります。そこでは小さい皿に盛られたお惣菜を適当につまみつつ、ワインを1、2杯飲んだらまた次のバーカロへ、というのがヴェネツィアっ子の楽しみ方。干しダラの身をほぐしてオリーブオイルやニンニクを加えペースト状にしたヴェネツィア名物「バッカラ・マンテカート」も、この店でなら食べられる。

やっぱりオペラと一緒で、イタリア人のシェフがつくると何か違う。イタリアのものは全部イタリア人でなければならないというわけではないけれど、やっぱり料理も芸術もその土地で生まれ育った人の手によるものは格別です。その地方でとれる具材を季節によってうまく合わせてくれるので、いつ来ても新鮮ですし、20席くらいのこぢんまりしたリストランテだけに、シェフの気配りが行き届いているのが実に気持ちいい。

イタリアンはかしこまりすぎず、かといってくだけすぎず、いい雰囲気になることが多い。気のおけない仲間と楽しむだけでなく、大事な仕事の話をするときも、イタリア料理というのはとても合っている気がしますね。