スティーブ・ジョブズ氏
(ロイター/AFLO=写真)

「ハングリーであれ、愚か者であれ」

「死は、生命の最高の発明だ」

「内なる声を聴け」――。

11年10月5日、56歳の若さでこの世を去ったアップルの創業者スティーブ・ジョブズ氏の生き方は、禅道そのものだった。2005年に米スタンフォード大学での講演で残した言葉には、仏教の教えが色濃く漂う。

「『ハングリーであれ、愚か者であれ(Stay hungry, Stay foolish)』は、(曹洞宗の祖、洞山良价(とうざんりょうかい)禅師が説いた)『愚の如く、魯ろの如く、よく相続するを主中の主と名づく』を訳したものだろう。『よく相続するを主中の主と名づく』は、コツコツと1つのことを続ける人が最も強い、という意味である。形あるものは必ず滅びる。だからこそ、命ある間にたゆまず精進し、一瞬一瞬の生を最大限に発揮せよ、という教えだ」

カリフォルニア州オークランドに住む曹洞宗の北米国際布教総老師、秋葉玄吾は、妻のローレンさんとともに、気軽に他の人たちと話していたという。

「シンプルであることは、複雑であるより難しい」

不世出のイノベーターと禅との出合いは、1970年代にさかのぼる。ジョブズ氏は、生後すぐに養子に出されたが、養親が裕福でなかったため、大学を中退。73年に友人とインドを旅し、聖者と呼ばれたニーム・カロリ・ババに出会ったことで、人生観が一変する。

カリフォルニアに戻ったジョブズ氏は、頭を丸め、インドの伝統装束に身を包み、「仏教徒」に変身していた。ジョブズ氏が知野老師と出会ったのは、このころだ。仏教心に目覚めた同氏は、禅センターにいた知野老師の下に足しげく通うようになる。当時、仏教は若者の間で人気があった。ジョブズ氏が「バイブル」と呼んでいたヒッピー文化を代表する雑誌『Whole Earth Catalog』も、仏教を「覚醒ツール」と評している。