「会社都合」のはずがいつの間にか自己都合に!?

「会社を辞めてもらえないか」と労働者に働きかけることは必ずしも違法ではない。しかし、本人が辞めたくないと言っているにもかかわらず、多人数で長時間拘束し、多数回にわたって執拗に退職を迫るような退職勧奨は「退職強要」といい、損害賠償(民法709条・不法行為)の対象になる。

図1:強制退職を立証するには
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図1:強制退職を立証するには

だが、退職強要は密室空間で行われるため、会社側はその事実を否定しようとするだろう。それに反論するには退職強要の事実を証拠化しておくことが必要だ。

一つは詳しいメモを取ること。何月何日何時に、どこで誰から何を言われたかを毎回記録していれば、裁判での証拠価値は高い。さらに録音、写真、メールなどの動かぬ証拠があれば申し分ない。隠し録りでも十分に証拠能力はある。たとえばICレコーダーを胸のポケットに潜ませ、相手の誹謗中傷や罵声を録音できれば決定的に有利になる。また、どこで行われたかということを説明するために、携帯で現場の写真を撮っておく。メールを通じて執拗に退職を迫ってきた場合は、そのメールをUSBメモリーなどに保存しておくこと。

一般的に、希望退職者募集に際しては、辞めてほしい社員をリストアップし、退職勧奨や退職強要によって辞めさせるケースが多い。その場合、常識的に考えれば「会社都合」による退職となるが、実際は「自己都合」にされてしまうケースも少なくない。自己都合になると、退職金の支給、失業保険金の支給と、二重に不利になる。

図2:離職票の「自己都合」を見落とすな
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図2:離職票の「自己都合」を見落とすな

退職金規定のある会社の場合、たとえば「退職金算定基礎給×勤続年数×事由係数」といった計算式で支給額が決まる。この場合の事由係数が、自己都合だと1、会社都合であれば1.2~1.3としている会社が多く、自己都合になるともらえる退職金が少なくなる。また、失業保険金の受給でも、自己都合の場合は、申請して3カ月後の支給となるが、会社都合の場合は「特定受給資格」が発生し、約1カ月後に支給されるほか、金額も増額されるうえ受給期間も長くなるというメリットがある。

自己都合にされないためには「会社の要請で辞めるのだから会社都合になりますよね」と、くれぐれも会社に確認し、確約が得られるまで退職届を出さないことである。

また、失業保険金を受給するには、会社が記載した離職票をハローワークに提出する必要がある。離職票の離職理由や事業主の記載欄が自己都合となっている悪質なケースは意外と多い。その場合は書き直させること。それでも会社が修正に応じない場合は、本人記載欄に「退職勧奨により退職した」旨を書き、事業主の離職理由に「異議あり」と記せば、ハローワークが調査して会社都合になることも多い。会社の言いなりに退職届に判子を押してからでは遅い。会社に対して自分の意思を伝え、当然の権利を主張することが重要である。

※すべて雑誌掲載当時

(構成=溝上憲文)