わが社は従業員2000人の自動車部品メーカーです。わが社には現在、技術的には完璧な製品がありますが、顧客はそれを買ってくれません。

競争力を維持するためには、明らかに価格を下げる必要があるのですが、私にはどうやって下げればよいかわかりません。わが社のコスト管理は徹底していますから、中国やインドや東欧へのアウトソーシングも無意味です。そのうえ、わが社の技術水準は高く、機械類の減価償却率もきわめて低くなっています。ミロスラブ・ミクリン(チェコ共和国)


 

従業員数わずか2000人の企業の方のわりには、あなたは大企業病の最も一般的な症状の1つ、NIH(not invented here=うちで開発されたものではない)症候群にかかっておられるようですね。

NIHがどんなものかはご存知でしょう。経営者が自分の会社はこれ以上改善の余地がないほどすばらしいパフォーマンスをしているという考えに安住している状態、つまり外部のアイデアを使って仕事のやり方を改善することにほとんど関心が寄せられない雰囲気を生み出すほど安住しきっている状態を言います。

NIH症候群の経営者は、わが社はすべてわかっていると思っています。なにしろ、その会社はそこそこの歴史があって、それなりに成功しているのですから。「これがうちのやり方なんだ」と、彼らはしょっちゅう口にします。そして、誰かが新しいやり方を提案したら、たいてい「それは前に試してみた」という決まり文句でやり返します。

大企業病は総じてばかげています。大企業病の症状には、NIHの自己満足のほか、惰性、形式主義、リスク回避などがあります。しかし、NIHはそのすべてを上回ります。それは組織を破壊し、競争力をどんどん失わせていくのです。

では、その治療法についてお話ししましょう。

まず、あなたの状況を見つめてみましょう。あなたは、コスト管理を徹底しているので、アウトソーシングを行ったとしてもこれ以上のコスト削減は無理だと述べておられます。また、自分の会社には最高の技術があるのだから、その点からも会社の外で代わりの方法を探すことは不要だと思っておられるようです。しかし、このままではおそらく脱出方法を見つけられないでしょう。それはあなたが内を向きすぎているからです。

あなたの問題は単純明快です。ライバル会社はあなたの会社より高性能の、より安価な新製品をつくって、より早く発売しているのです。解決策も単純明快に思えます。わが社はあらゆることを試してみたという考えを捨て、あらゆることを試してみてください。

つまり、取り組むべきはイノベーションです。あなたの会社は、市場がぜひとも買いたいと思う価値提案を生み出す新しいプロセスなり、製品なり、サービスなりを見つけることに関心を集中させる必要があります。あなたの会社に必要なのは、おそらく新しい慣行、たとえば――新しい購入の仕方とか、顧客とコミュニケーションをとる新しい方法といったものでしょう。

新しい技術が、あなたの会社を前進させてくれるでしょう。それが社内で開発できるものであっても、もしくはライセンス契約や合併や買収によって他社から獲得できるものであっても同じです。思い込みを捨てて自由な目で眺めれば、あなたは改善の可能性の世界がとても大きいことに気づくはずです。

とにかく、アウトソーシングの面を追求し続けてください。あなたの会社の機械類は、性能もよく最新式であるかもしれませんが、もっと安いコストであなたの会社の製品を製造できる会社がどこかにあるはずです。

現時点でのあなたの最大の利点は、皮肉なことに会社の規模です。あなたの会社は大企業病にかかるには小さすぎるのです。従業員が2000人しかいないのですから、新しい技術を開発・テストするにしても、すばらしい付加サービスを持つ会社を買収するにしても、経営陣を入れ替えて技術のパラダイムを打ち破れる新しい顔ぶれを招じ入れるにしても、迅速に行動できるはずです。

最大の障害になっているのはあなたの姿勢です。あなたが陥る余裕などないはずの偏狭な大企業病なのです。

(回答者ジャック&スージー・ウェルチ 翻訳=ディプロマット (c)2006. Jack and Suzy Welch. Distributed by New York Times Syndicate.)