お客に近い立場で商品をつくろう

前例が豊富にある「いつもの仕事」を進めるには、いうまでもなく周囲との報告・連絡・相談が不可欠だ。しかし、それが「前例のない仕事」だったとしたらどうだろう。

「遺言書キット」「エンディングノート」の開発者、岸田裕子。大阪大学法学部卒。大学のサークルで無料法律相談を経験した。司法試験を目指したことも。

文具大手コクヨS&Tのコンシューママーケティング事業部に所属する岸田裕子は、同社にとっては前例のないやり方により、前例のない商品をつくりあげ、新しい市場を切り開いた経験を持つ。実は岸田によれば、そんなときにも、上司や同僚との適切で密なコミュニケーションは大きな力になったというのである。

彼女がつくりあげたのは、公証人など法律家の手を借りずに自分の手で正式な遺言書をつくれる「遺言書キット」である。さらに派生商品として、入院など非常時を想定した備忘録の「エンディングノート」を開発し、ともに7万冊を超えるヒット商品に育て上げた。

岸田と上司、同僚たちは、どうやってこの「前例のない仕事」を成し遂げたのだろうか―。

「俺たち営業・販促チームで、これまでにない新しい商品をつくってみないか?」

始まりはマーケティング企画部長の東口広治(42歳、現・ECM部部長)が発した、こんな一言だった。

ノートやファイル、履歴書用紙などの紙製品をはじめ、ハサミやホチキスといった事務用文具で知られるコクヨS&T。商品の企画・開発部門は伝統的に大阪市東成区の本社に置かれている。一方、大消費地にあるここ東京オフィスは、営業・販売促進部門の中心である。