人びとはどのサービスをどの程度利用し、その傾向は年々どのように推移しているのか――。プレジデントオンライン編集部がビデオリサーチ社と共同で お届け する本連載。首都圏の消費者を「お金持ち」層(マル金、年収1000万円以上)、「中流」層(マル中、年収500万円以上から1000万円未満)、「庶民」層(マル庶、年収500万円未満)という3ゾーンに区切り、生活動態の分析を試みている。


 

ウィスキーをソーダで割るという簡単な飲み方で、昨今、年収層を問わず定着した感のあるハイボール。このハイボールをきっかけとして、ウィスキーそのものの飲用経験にも影響したのか、2009年から2010年にかけて全層で伸びを示している。

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男女20歳以上に聞いた3カ月以内の飲用経験率。

実はウィスキーは'83年をピークに販売数量が下降していたという。各社が打開策を模索する中、サントリーは、角ハイボールを出しているいくつかの店で、意外にもそれを飲んでいるのが若年層であるという情報を掴む。そこで、ハイボールをジョッキスタイルで提供することを提案、「サントリー角瓶」のロゴの入った専用ジョッキをつくったところ、人気に火がついた。

これをきっかけに、角ハイボールの大規模なプロモーションを始めたのが2008年である。

サントリー広報部によると、「ハイボールは、その炭酸の刺激や爽やかな飲み口で、ビールやRTD(※1)カテゴリーと比較しても異なる価値が評価され、飲食店のみならず“家飲み”にも浸透してきたと感じています」とのこと。

ハイボール缶も好評で、中でも「角ハイボール缶〈濃いめ〉」という商品は、昨年からコンビニ限定販売、今年はさらに販売チャネルを拡大する予定だという。

手軽さに加えて、一緒に楽しめる料理の守備範囲が広いことも、ハイボール人気を支えている一因と言えるだろう。

銘柄別で「サントリー角瓶」に絞り込んだデータを見ると、年収1000万円以上のマル金層では'09年から'10年にかけての飲用経験率が2%から5%へと増加。他の層でも同様、数値を伸ばしている。しかし、マル金層においては'10年から'11年にかけてやや下げ、その後も横ばいになっている。この動きをどう見るか。

サントリー広報部は、こう解説してくれた。

「ハイボール人気からウィスキーへの関心が高まり、『山崎』や『白州』などのプレミアムカテゴリーについても飲用意向が高まったと考えています。白州は自然環境に恵まれた、世界的にも珍しい“森の蒸溜所”。フレッシュミントを添えた『白州』の「森香るハイボール」は、すっきりとした味わいで女性にもご支持いただいています」

「角瓶」で火のついたハイボールだが、ベースとなるウィスキーの選択肢が広がっていったのがこの時期ということか。

わかりやすい例として缶入りハイボールの発売時期を振り返ってみよう。

「サントリー角ハイボール」が2009年10月発売で、これにアサヒビールの「ブラックニッカ クリア ハイボール」(10年5月発売)、サントリー「トリスハイボール缶」(10年9月発売)、キリンビール「I.W.ハーパー ハイボール」「フォアローゼス ハイボール」(10年11月発売)と続く。

'08年から'09年にかけてサントリーが仕掛け、一躍市民権を得た「角ハイボール」。そのブームの一つのピークが'10年で、そこに前後して他社も参入してきたことが嗜好の幅を広げたといえよう。それが経験率調査の変化にも表れているが、その後も、マル庶層を除いてほぼ横ばいなのを見ると、改めてハイボール市場における「角」ブランドの強さも感じさせられる。

ちなみに、昨年5月に発売された新しいシングルモルトウィスキー『白州』も好調に売り上げを伸ばし、『白州』ブランドの売り上げは対前年310%を達成した。ハイボール人気を生み出した『角瓶』のみならず、プレミアムウィスキーにまで広がりつつあるウィスキー人気が、30年ぶりの波を定着することができるのか。今後の動きに注目したい。

※1:「Ready to Drink」の略語。栓を開けてそのまますぐ飲める缶チューハイや缶カクテルなどの低アルコール飲料を指す。

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※ビデオリサーチ社が約30年に渡って実施している、生活者の媒体接触状況や消費購買状況に関する調査「ACR」(http://www.videor.co.jp/service/media/acr/)や「MCR」の調査結果を元に同社と編集部が共同で分析。同調査は一般人の生活全般に関する様々な意識調査であり、調査対象者は約8700人、調査項目数は20000以上にも及ぶ。

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