「取引を整理されない」特別な関係を築く

【TECHNIQUE】相手にイニシアチブを握らせよ
岩崎夏海氏

取引先と特別な関係を築くためには、相手に「自分がイニシアチブを握っている」と思わせることが重要です。

たとえばテレビ番組の企画を提案するとき、あえて企画にウイークポイントをつくっておくと、相手のプロデューサーやディレクターは「もっとこうしたほうがいいんじゃない?」と意見を言ってきます。そうしたら「それいいですね。ちょっと書き直します」と言って修正する。すると、相手にとって提案されたはずの企画書が、いつの間にか自分がつくった企画書になっているわけです。

他人からの企画提案に対し、「何でおまえの企画を通さなきゃいけないの?」と思うプロデューサーも多い。しかし、自分の企画になると「俺も頑張るよ」とやる気を出してくれるようになるのです。

もし自分の企画に絶対の自信があり、どうしてもそれを通したいのであれば、万全の準備を整えたうえで向こうから依頼されるのを待ちましょう。

私は30歳のとき、自分の小説を本にできないかと出版社をさんざん回ったあげく、すべて断られた経験があります。

作品を持ち込んだ出版社から「こうしてくれ」と意見が出るのですが、とうていのめない話ばかり。それを断ると「だったら結構です」という形で交渉が決裂したのです。

そのときにわかったのは、「向こうから依頼されないとダメだ」ということです。だから『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの「マネジメント」を読んだら』(以下、もしドラ)の企画は自分のブログに書いて、出版社から声がかかるのを待ちました。

それも「書籍化したい出版社募集中」というもの欲しそうな気持ちではなく、「この企画に賛同する出版社が現れるなら出版する」という気持ちで書きました。

その結果、たまたまブログを見てくれた編集者から「ぜひやりましょう」と連絡があり、書籍化が実現したのです。

編集者は私の企画を面白いと思ってくれているわけですから、話も早い。お互いの波長も合う。「私が見つけたこの企画をなんとか売れるものにしたい」という当事者意識を持って取り組んでくれました。今では売り上げは150万部を超え(※雑誌掲載当時)、編集者との間に強固な信頼関係が生まれたのです。

このように、取引相手が当事者となるよう巻き込んでいくことが大切です。