新渡戸の『武士道』は「義」を「武士の掟中最も厳格なる教訓」として、「卑劣なる行動、曲がりたる振舞いほど忌むべきものはない」と説く。30年ほど前に初めて『武士道』を手に取り、この「義」に照らし合わせながら、数々の修羅場において経営者としての決断を行ってきた人物が、ガス機器トップメーカーであるリンナイの内藤明人会長だ。

<strong>内藤明人●リンナイ会長</strong><br>1926年生まれ。48年東京大学工学部卒業後、父親が創業した林内製作所(現在のリンナイ)に入社。66年に社長、2001年に会長に就任する。また、日本青年会議所副会頭、名古屋商工会議所副会頭、日本ガス石油機器工業会会長など数々の要職も歴任している。
内藤明人●リンナイ会長
1926年生まれ。48年東京大学工学部卒業後、父親が創業した林内製作所(現在のリンナイ)に入社。66年に社長、2001年に会長に就任する。また、日本青年会議所副会頭、名古屋商工会議所副会頭、日本ガス石油機器工業会会長など数々の要職も歴任している。

その内藤会長が「義」の教えを具体的に落とし込んだものが、企業理念として掲げられている「『品質こそ我らが命』を銘とし、顧客志向に徹します」である。電気製品なら、仮に故障しても電気がストップすることで、発火などの大きな事故に至ることは少ない。しかし、ガス機器は違う。ガス漏れは、爆発という大事故に直結する可能性が高い。

それゆえ内藤会長は、「故障=墜落」という航空機をつくっている気概を持って安全性を追求するように言い聞かせてきた。60年代に、世界中の同業他社に先駆けてガス機器の「アナログとデジタルの融合」に取り組んだのも、消し忘れの自動消火ができて安全性が向上すると判断したからである。

「武士が刀に命をかけたように、我々も品質に命をかけている。品質はわが社にとっての刀といってもよい」と内藤会長は語る。武士は刀を持つことで、自分自身に「自尊ならびに責任の感情と態度を賦与する」といわれる。そのことを証明してみせたのが、3年ほど前に発覚した同業他社の湯沸かし器改造による死亡事故で業界全体の信用が大きく揺らいだときではなかったか。