妻や子どもに比べて親への義務は軽い

売れっ子のお笑いタレントが、十分な仕送りをせず、実母に生活保護を受給させていた――。

12年5月、こうした「不正受給疑惑」が週刊誌で報じられ、大きな騒動になった。「裕福な子どもが、親の面倒をみないのはおかしい」という批判が聞かれたが、子どもは親の生活に対して、どこまでの義務があるのだろうか。

民法は、夫婦と直系血族および兄弟姉妹、特別な場合には3親等以内の親族には互いに扶養する義務があると定めている(752条、877条)。ただし、過去の判例などから扶養義務は本人との続柄に応じて強さが異なると理解されている。

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生活保護の世帯数は急増中

配偶者間と未成熟な子どもに対する親については、本人と同じ程度の生活を保障する「生活保持義務」がある。一方、親に対する子どもや兄弟姉妹、3親等以内の親族には「生活扶助義務」がある。これは、自らの社会的地位にふさわしい生活を成り立たせたうえで、なお余裕があれば援助する義務だ。つまり配偶者や子どもに比べると、親への扶養義務は軽い。ましてや様々な事情で「縁を切った」親への扶養義務はより軽いとされている。

現行の生活保護法では、たとえ援助できる余裕のある子どもがいたとしても、親は生活保護を受けることができる。

1950年に現行法が制定されるまでは、家族や親族による私的な扶養が強調され、公的な援助は恩恵でしか認められなかった。これは江戸時代から続く儒教や家制度、封建制度の影響だろう。だが、現行法になって、私的な扶養は保護の要件から外された。これはかつての私的扶養の強調が時代錯誤だと認めたものだといえる。

よく誤解されるのは、生活保護法4条2項に「扶養義務者の扶養は保護に優先して行われる」とある点だ。これは「生活保護を受ける前に、家族に頼れ」という意味ではない。保護受給者が仕送りなどを受けた場合には、その分だけ保護費を減額するという意味だ。実際、厚生労働省は2008年に、「扶養が保護の要件であるかのごとく説明を行い、その結果、保護の申請を諦めさせるようなことがあれば、これも申請権の侵害にあたるおそれがあるので留意されたい」との通知を出している。