200億円以上の訴訟になる可能性も

「ハグをしようが、頬を合わせようが、全く気にならない。むしろ親愛の情を感じる」という絶対的な信頼関係がある男女であれば、もちろんセクハラは起こりにくい。だが、その関係性は、あなたが勝手に都合よく解釈しているものではないだろうか。「自分(たち)に限ってそんなことはない」――セクハラは、そうした勘違いから起こるものだ。

たとえば、普段から和気あいあいとした雰囲気の職場で、歓送迎会が開かれることになったとしよう。お酒もほどよくまわり、最後に記念撮影をすることになった。すると部長の男性が特別な意識もなく、部下の女性の腰や肩に手を回した。女性は嫌だったが、場の雰囲気を壊したくないがゆえに、笑ってやり過ごした。

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基本はすべてアウト! 特に注意すべき3条件

ここまでであれば、損害賠償請求が成立するほどのことはない。ところが、その後も飲み会のたびに部長が女性の肩に手を回したり、手相を見てあげるといって手に触れたりするとなれば話は別だ。セクハラとして訴えられても致し方ないだろう。

上司と部下の関係は、男女という関係に加え、立場上の力関係による“強制”が生じかねないだけに複雑だ。たとえば強制猥褻行為といえば、殴る蹴るの暴力行為によるものと考えられがちだが、圧倒的な力関係が働く場合にも、一種の強制力が働くと考えることも可能だろう。上司と部下という関係は、まさにそうした関係にあるとみなされかねないわけだ。

おさわりではないが、上司と部下の関係においては疑似恋愛型のセクハラも要注意。上司の男性が部下の女性を夜の食事に誘えば、部下としては「つき合いが悪い」と思われたくないからついていく。会話もそれなりに上司に合わせるだろう。すると上司はお酒を飲んでいることもあり、楽しい気分になる。やがて「この娘は自分のことを嫌ってはいないな」と勘違いをし始め、それが2、3度と続くと、もう一歩を踏み出す行為に出てしまう。そこでようやく部下に拒否され、目が覚めるのだ。

この典型例で最も有名なケースが、2006年に発生した北米トヨタ・セクハラ事件。会社側の対応にも問題があったこともあり、当時の為替レートで200億円以上の訴訟を起こされた。結局、和解が成立したので真実は藪の中だが、セクハラによって大きな代償を払わなければならなくなったケースは枚挙に暇がない。