伏線と複線

大船渡での取材光景。

大船渡高2年の伊藤英理さん。「なりたいもの」は教職、栄養士、国際関係、医療。それぞれのきっかけを教えてください。

「医療は、ただ言ってみて、格好いいなと思って、ちょっと思っただけ(笑)。栄養士の方は、学校の授業で進路を探すための職業調べみたいなのをするんですけど、そのとき適性チェックとかしているうちに進んでいったら栄養士っていうページが出てきて、それを読んでいたら『なってみたいな』って思って。教師の方は、お母さんが大船渡で小学校の先生やってて、話とか毎日聞いてて。あと、中学校の時の職業体験で小学校に行っって、体験授業みたいなのもをちょっとだけやらせてもらって、楽しいなって思って。今のところ、教職を一番に考えています。あと、国際関係のきっかけは、アメリカの研修(注・「TOMODACHIサマー2012 ソフトバンク・リーダーシップ・プログラム」のこと)です。(じっさいにどこで働くかは)進学先に左右されそう。『この職業になりたい』っていうガッツリしたのが全然ないから、大学でもいろんな新しい体験して、また左右されるかな……。アメリカでもすごくグイッて曲げられたし。曲げられたっていうか、変えられたっていうか」

「TOMODACHI~」の3週間で、合州国で働いている日本人から受けたインパクト、大きかった?

「もう視野がグワッて広がったかんじで。会う人会う人が自分の知らない職業の人ばっかりで、聞くと、ほんとに誰もが好きでやっていて、すごい楽しそうに話してくれて。今まで知らなかった職業もいっぱいあって、損したなと思って」

えっ、まだ高校生だから損していないのでは?

「でも、こっちで知っていた職業は、よく聞く職業というか、身近にいるような職業しか知らなくて、その範囲の中で自分も考えていたところがあって。もっといろんな人の職業を、もっともっと知りたいなと思いました。授業でやった職業調べのときに、向こうで知ったような職業をもっと知っていれば、それについてもたくさん調べることができたなと思ったので、損したなと思って」

取材から2カ月後、メールを送って訊いてみた。その後、やってみたい職業のイメージが固まったり、増えたり、絞り込まれたりしましたか?

「やっぱり英語はやりたいです。今、考えているのは大学の教育学部で初等教育を取ることなんですけど、英語の教員免許も取りたいです。やっぱり、お金的にも国公立にいきたいと思いまして。大学は宮城教育大とか岩手大とか北海道教育大を考えています。できれば関東のほうにいきたいんですけどね(笑)。わたしが重要視していることは、留学制度がしっかりしていること。留学で行ける大学がたくさんあることです。留学もしくは海外との交流ができる国公立がいいんです。教育学部にこだわらなくてもいいというのが、わたしの考えなんですが、『それでは就職先が大変』と、親にも先生にも言われているので、教育にいこうかな、というわけなんです。今後の進路面談でどうなるかですが、教育学部で小学校の先生を目指す初等教育課程で勉強することになるのですが、ふくせんで英語の教員免許もとりたいな、というわけです」

「ふくせん」は、「伏線」と「複線」のダブルミーニング。合州国での体験で、一旦は大きく拡がった「やってみたい仕事」が、取材から2カ月の間に、本人の意思で絞り込まれ始めている。この「絞り込まれ方」は、高校生1人ひとりずつ、実に多様だ。次に話を聞いた高校生の場合は、なりたい仕事が「ガッツリ」あり、そこに合州国での体験が付加されたというパターンになる。