巻き込まれ型リーダーシップ

取材前に覗いた大船渡のまちづくりワークショップ。

大船渡高校2年生の廣野秀幸さんは、中学校の数学教師志望。廣野さんは「TOMODACHIサマー2012 ソフトバンク・リーダーシップ・プログラム」に参加し、現地で数学教師をしている日本人男性に会って話を聞く機会があった。

「40歳代くらいの方だと思います。最初は広告代理店に務めていて、アメリカに出張して、その時にちょうど日本語の先生が足りない学校があったらしくて、頼まれて先生の仕事を受けたら想像以上に楽しくて、このまま続けたいと思ったそうです。それから勉強して、カリフォルニアの学校の数学の先生になったそうです。向こうで話を聞いて、海外で先生になることのイメージが湧いてきました。今のところ、8対2くらいで、海外で働いてみたいと思ってます」

作文で「何となく」先生になりたい、と書いた。それがきっかけになった。その仕事が、海外でもやれるものだということに気づいた。さらに廣野さんは、自分が「巻き込まれ方リーダー」だということも発見したらしい。「TOMODACHI~」のテーマは、被災地復興のリーダー育成にある。そのことをどう考えているか、廣野さんに聞いてみた。

「帰って来て親に話したら、何だっけな、本当のリーダーシップは、上に立つんじゃなくて、下の人と一緒になって話を聞くとか、そんなかんじのことを言われました。ピラミッドのてっぺんじゃなくて、円の中心点。親が言ってくれたのは、もっと格好良かったと思うんですけど(笑)。でも、そう言われて、やっとリーダーシップの形が見えてきたというか。日本の学校で学級委員を選ぶときとは違いますね。向こうでは、生活しているうちに勝手にリーダーができるかんじです。勝手に引っ張ってくれる人が出て、それが続いていくうちに、その人が信頼されてリーダーになっていくかんじ。向こうに行くまでリーダーシップって考えたことなかった。考えるきっかけになって良かったと思います。ぼく、小学校の頃から上に登らされるタイプなんですよ。なりたくてやってるわけじゃなくて。巻き込まれ体質? そうですね。親からも『それがお前のリーダーシップだ』みたいなことを言われました。T4Mも最初は4人で始まったんですけど、面白そうだから入ってみようかなって入ったら、そのまま上に上がっちゃったみたいな。宮城の2人に騙されて入った? そんなところです(笑)。それはなんでかなというのが今回気づけたというか」

T4M(ティ・フォー・エム)は、「TOMODACHI~」参加者内の有志によるグループだ。Talking, Thinking, Tohoku, TOMODACHI の「T」、for, four(最初に始めた4人の意)の「4」、Motivation, Movement の「M」。合州国での体験を一夏の思い出で終わらせることなく、今後も継続していくための集まり。3週間の終わり際に、宮城県石巻市から来た高校生が提唱し、仲間を集めた。アップルストアでの発表会の際、こちらは彼に「具体的に何をやるのか、よくわからんのですが」と意地悪な質問をした。イベント終了後にその高校生に詳しい話を聞こうとすると、自分は3年生なので、このあとのリーダーは彼です、と紹介されたのが廣野さんだった。廣野さんはこちらに一方的に「取材の窓口」と任じられ、質問を浴びせられる羽目になった。確かに「巻き込まれ体質」である。

廣野さんのように、合州国での経験で進路のヴァリエイションが広がった高校生は少なくない。次に登場する高校生は「アメリカに行ったら、いろんなのに興味ができちゃって、なりたいのがわからなくなったみたいなかんじ」と語っている。