プロにかかると
素人が逃れるのは至難の業だ

「私の母親が認知症となったとき、どこから聞きつけたのかマルチ商法や新興宗教の人が連日自宅に押しかけてきました」――医師・弁護士らを対象とした危機管理のアドバイスを行う平塚俊樹・武蔵野学院大学客員教授が言う。

「まだ判断能力が残っているうちに、公証役場に行って任意後見人契約を結び、財産の管理権を私に移しました。法務局に登記されますから、新しいのは来なくなりました。彼らはそういうところを見ています。しつこいのはその後も来ましたが……」

巨額の資産を持つ独居老人が認知症に……世に徘徊する魑魅魍魎の恰好のターゲットである。物理的な防壁もさることながら、プロの手にかかると法的な防壁もきわめて怪しくなる。

「悪い奴が独り暮らしの老資産家に接近するときは、娘や息子と同年代で容姿の似た者を毎日訪問させます。老人は話を聞いてもらうのが嬉しくてつい気を許し、家族同然の仲に」(平塚氏)

ある独居老人が亡くなって、相続の手続きのために親族が集まってみると、いつの間にか自宅に抵当が付いて、暴力団関係者に1億円借りたことになっていた……警察にそんなケースの相談を受けたというある弁護士が言う。

「その老人はお金は十分持っていたから、借りる理由はないし借りていないという確信はある。でも、亡くなった後だからその証明が難しい」

警察はその暴力団を捕まえることはできても、抵当権は外せない。共に協力して、暴力団の追及は警察が、民事のほうは弁護士たちが担当したという。

「相手は準構成員が多いですね。不動産だと司法書士が間に入って面倒だから、最近相談が多いのは借用書で返済を迫ってくるケース。裁判所は筆跡鑑定を判決に加味しないし、いまだに『印鑑の偽造はありえない』などと考えているから、1000万、2000万円を簡単に持っていかれる」(平塚氏)