見抜かれたポジティブ・シンキング

「TOMODACHIサマー2012 ソフトバンク・リーダーシップ・プログラム」のひとこま。

益山さんに「TOMODACHI〜」の3週間で会った人の話を訊く。

「最後の日、これから(UCバークレーに)入学する人に会って話を聞いたんですけど、その人が面白かったです。若いお兄ちゃん。あと、向こうで看護師のお仕事をしている方のお話には興味を持ちました」

高校生への取材は難しい。面白かった、興味を持ったということばの先を引き出すのが難しい。益山さんが精神科医志望であることを手がかりに、こういう訊き方をしてみた。行ってみて感じたかもしれませんが、合州国の人はポジティブな人が多い。それは益山さんの眼にどのように写ったのかが知りたいのです。

「確かにポジティブな方々はたくさんいました。ですが、ポジティブというより、頑張ってそうしている人もいると感じました」

高校生への取材は面白い。語彙の数に頼らない、短くてもこちらが一瞬たじろぐような、こうしたことばに必ず会える。「頑張ってそうしている人」が心を病んで益山医師を訪ねるとき、「頑張ってそうしている人もいると感じました」と静かに頷かれるのであれば、それは良い治療の始まりのような気がする。益山さん、学歴とはまた別に、精神科医になるために益山さんが必要だと思う能力は、誰に対してどんなことができる能力だと思いますか。

「聞き上手ではなく、相手を受け入れてきちんと向かいあって聞ける能力だとおもいます」

医者を名乗るには、大学の医学部を卒業し、医師国家試験に合格し、2年以上の臨床研修を勤めなければならない。精神科医になるには、そのあと大学医局や病院の精神科に勤務するのが一般的だ。つまり難関であり、時間がかかる。益山さん、精神科医になれなかったときは、どうしますか。

「もしなれなかったら、臨床心理士考えてます。(そのために行く)大学はわからないです」

臨床心理士は、財団法人日本臨床心理士資格認定協会が認定する民間資格だ。同協会のウエブサイトを見ると「平成8(1996)年度の資格審査規定の改正に伴い、臨床心理士資格試験を受験するには、本協会の指定を受けた臨床心理士養成に関する大学院修士課程(博士前期課程)の修了が必須となりました(医師、諸外国における大学院を修了した者を除く)」とある。指定を受けている大学院の数は159。福島ならば、国立の福島大学大学院(人間発達文化研究科学校臨床心理専攻)と、福島市にある私立の福島学院大学大学院(臨床心理学研究科臨床心理学専攻)が該当する。後者は戦前に洋裁学院として開設され、短大を経て、2003(平成15)年に大学になった学校だ。どのような進路にせよ、益山さんは南相馬を出ることになる。それは構わないんですか。

「すぐには開業できないから、最初は勤務医で。そのときは県外へ出ても構わないです。でも、30代後半ぐらいには戻って来て、原町の自分の家の近くで開業したいと思います」

自分たちが暮らす町を出る・出ないの選択は、近いところにそのための学校があるかどうかで変わってくる。この感覚は首都圏で暮らす親子にはなかなか実感しづらいだろう。この連載の中で繰り返して言うことになるが、東北には高等教育機関の数も、そのヴァリエイションも、きわめて少ない。「一度はこの町を出る」を選択する者は多い。

但し、東北だから可能になる「町を出るとき役に立つインフラ」がある。こちらは、そのことを次に話を聞いた高校生の話から教えられることになる。