大槌—この町にはなさそうだけれど

大槌町安渡(あんど)・赤浜地区より大槌湾を望む。中央に見えるのが「ひょっこりひょうたん島」のモデルとなった蓬莱島。大槌港岸壁は地盤沈下の影響で海水が溢れることも。(撮影=東 紗紀)

大槌高校1年生の菊地真央さんは、将来の職業選びにはまだ悩んでいる。だが、それが大槌の町にあるかどうかは感じ取っている。仕事に就いたとき、どこで暮らしていると思いますかと訊いたときのことだ。

「ほんとうはここを出たくないけれど、働くところがないので」

何になるかは決めていないけれど、この町にはそれはなさそう——。では、どの街ならば仕事があると思うのか。暮らしてみたいのか。

「アメリカで暮らしてみたいんです。通訳になりたかったころから、アメリカに住んでみたいと思っていました。アメリカでもあんまり都会とかじゃなくて、住みやすいところで」

取材後、菊地さんにメールを送り、理想である合州国での「暮らしてみたい度合い」が100%、「やりたい仕事に必ず就ける可能性」を100%として、いくつかの地名を並べて訊いてみた。結果は、南隣の釜石や、山向こうの遠野が「暮らしてみたい=10%。仕事がありそう=30%」。県庁所在地の盛岡は「暮らしてみたい=50%、仕事がありそう=60%」と数値が上がる。仙台は「暮らしてみたい=70%。仕事がありそう=70%」。東京は「仕事がありそう=80%」と最高値だが、「暮らしてみたい」は60%に下がる。そして今、自分が暮らす大槌は「暮らしてみたい度=40%。仕事がありそう度=10%」という結果になった。

菊地さんはこの夏「TOMODACHIサマー2012 ソフトバンク・リーダーシップ・プログラム」に参加し、住んでみたいと思い続けていた国で3週間を過ごした。彼女の合州国の第一印象は、食生活。

「食べ残しが多いなと思いました。ピザもそうだけど、サイズが大きくて。アイスをバケツでどんだけ食べるのかな、と(笑)」

アイスクリームのサイズだけではない。UCバークレーがあるサンフランシスコは、菊地さんの理想とする「あんまり都会じゃなくて、住みやすいところ」とするには、ちょっと大きすぎる街だったようだ。だが、3週間の体験を語る菊地さんは、実に楽しそうに、それでいて噛みしめるように話す。合州国の3週間で学び、これから先いちばん役に立ちそうなことは何か、と訊いたときのことだ。

「聞くだけでなく、自分の意見も言わないと、みんなで話して何かをかたちにしようとしても、いいものにならないとわかったこと」

大槌の4人は、揃ってこの話——横文字にすれば「コミュニケーション・スキル」の大切さを学んだと語る。4人が揃ってそのことを語った意味は、4人全員に話を聞き終わってからようやくわかることとなる。