シャープやソニーなど、日本を代表する大企業の不振が言われて久しい。値下げ競争、円高、市場の縮小などさまざまな外的要因はあるものの、組織内部の問題も見過ごせない。成長に伴う複雑化が企業にとっていかに大きなダメージとなるかを説くのは『Repeatability(リピータビリティ)』の共著者、ジェームズ・アレン氏である。10年以上持続的に高成長を続けている大企業は、誰にもまねできない最先端技術を開発したわけでもなく、誰も手をつけていない新市場を創出したわけでもない。事業を単純化し、コア事業に強くこだわることで持続的に価値を創造し続けている。今を嘆き、過去の栄光を懐かしむのではなく、成功を再現し続けるための指針とは。


 
ジェームズ・アレン James Allen 
ベイン・アンド・カンパニーのロンドンオフィスのパートナー、同社グローバル戦略プラクティスの共同総責任者。ジョンズ・ホプキンス大学卒、ハーバード大学経営大学院修士課程修了。主な著書に、『本業再強化の戦略』(共著)。©Takaharu Shibuya
Q:成功を「Repeat<再現>する」ことよりも、新たなイノベーションを起こすことのほうが大切という風潮はないでしょうか。

本を書くにあたって、リピータビリティ<再現可能性>というのはアンチイノベーションではないかと言われる懸念はありました。しかし、われわれが本当に主張したかったのは、アダプタビリティ<適応力>です。これだけ変化が激しい時代においては、詳細な計画や正確な予測といったことよりも、すばやく適応し、継続的に学習し、成功を再現する能力のほうが競争力になります。

適応力がないことのいちばんの弊害は、「市場からの情報が吸いあげられない」とうことです。この部分を欠いた、単なる「繰り返し」という意味でのリピータビリティは最悪のシナリオです。フィードバックループをきちんともちえる適応力をもつことが重要です。

リピータビリティの概念はイノベーションへの逆行ではないし、何をやるべきかのチェックリストでもルールブックでもありません。何をもって自分たちの使命とするのかを社内で共有し、それを権限移譲して現場で実行してもらうための考え方です。