首都大学東京准教授 水越康介(みずこし・こうすけ)●1978年、兵庫県生まれ。2000年神戸大学経営学部卒、05年神戸大学大学院経営学研究科博士後期課程修了。首都大学東京研究員を経て、07年より現職。専門はマーケティング論、消費者行動論。主な著書として、『企業と市場と観察者』『Q&A マーケティングの基本50』『『仮想経験のデザイン』(共著)『マーケティングをつかむ』(共著)など。 

ユーザー参加型製品開発を考える

これまでの連載では、基本的に誰でも手に入る二次資料を元にしながら事例分析を進めてきた。今回は、少し当事者に対するインタビューも含めながら話を進めることにしたい。といっても、まったく知らない相手に対してわざわざ話を聞こうというわけではない。連載の最初に述べたように、何かを分析したり考えたりする際、直接聞けそうな関係者が近くにいるのならば、当然聞いたほうがいいという次第である。

そういうわけで、今回のテーマは僕自身にとって身近なものである。現在、法政大学経営学部の西川英彦教授と、流通科学大学商学部の清水信年教授を中心にして、学生参加型製品開発プロジェクト「Sカレ(student innovation college)」を行なっている 。これは、ユーザー参加型製品開発の先駆けとして知られるエレファントデザイン(CUUSOO SYSTEM)の協力のもと、学生たちに実際に製品を企画、販促、さらには協力企業とともに製品をつくって販売してもらおうというプロジェクトである 。今年で7年目を迎えるSカレは、22大学、29ゼミ、約400人の学生が参加する一大プロジェクトとなった。協力してくれる企業も増え、後述するネスレやマイナビといった大手企業や、大橋量器や府中家具、d.i.jや岡村といった中小の地場企業やベンチャー企業など、多種多様になってきた。

「Sカレ2012」
http://life.cuusoo.com/cmpn/scolle2012/1
「CUUSOO SYSTEM:空想生活」
http://life.cuusoo.com/

もちろん、こうした学生を中心とした企画プロジェクトは世の中にたくさんある。しかし、ことSカレについてはいくつかの特徴的な点がある。特に、昨今注目されてきたネット上でのユーザー参加型製品開発の仕組みを利用していること、それに関連して実際に開発販売までを苦労してでも行なうという点は、なかなか他に類を見ないのではないかと思う。

具体的には、Sカレは以下の手順で進められる。先ず、6月初旬に開会式が行われ、参加学生全員が集まってSカレの概要についての説明を行なう。今年は日本大学で開会式が行われ、協力企業から大枠のテーマが与えられるとともに、そのテーマ毎に学生はチームで参加し、商品企画を開始した 。

YouTube「Sカレ開会式動画」
http://www.youtube.com/watch?v=_Embk4Q0HTA

夏休み明け10月までに具体的な商品企画が決められ、用意されたサイト上にその商品企画がアップロートされる。学生たちはそのホームページについても自分たちでレイアウトを整え、TwitterやFacebookといったソーシャルメディアとの連動を考えながらサイトデザインを進める。サイト上では、商品企画がアピールされるとともに、閲覧者からのコメントを受け付けており、そのコメントをもとに商品企画のコンセプトはブラッシュアップされる。

学生たちは、ここからさまざまに販促活動を行いながら、サイト上で実際に購入してもいいという支持者を集めていく。今年は11月23日で支持者集めが閉め切られ、最後に閉会式では最終プレゼン報告が各チームから行われる。協力企業はサイト上での活動概要とプレゼン報告をもとに、商品企画を順位付けする。そして、もっとも良いと思われる商品企画について、その後学生とともに実際の開発を進める。無事に開発のめどが立てば、改めてサイト上でその旨の告知が行われるとともに、実販売に向けた予約が開始され、最終的に開発販売が実施される。

もちろん、開発が進められた商品企画のすべてが最終の販売に行き着くわけではない。むしろ、実際の開発段階のやりとりの中で開発が断念されることも多い。7年間で実際に開発販売された製品は10点強である。これを多いと見るか、少ないと見るか、あるいはもっと別の視点からSカレを評価したほうがいいのか、今回考えてみたいと思っているテーマはこれである。この試みは、単にSカレというものがどういうものなのかということにとどまらず、ユーザーが参加して製品開発を行うということがどういうものであり、またどのように考えれば、そうした可能性をより広げていくことができるのかという問題を考えることにつながる。

ネットやソーシャルメディアの普及を通じて、ユーザーと一緒に何かをやりたいと考える企業は増えているのではないかと思う。けれども、その具体的なやりかたがわからなかったり、あるいは試しにやってみたがうまくいかなかったりという企業もあるだろう。今回の分析は、そうした企業にとってはいろいろ示唆があるのではと思う。特に興味を持っていただけるようであれば、このSカレに連絡をしてもらえれば大変ありがたい。それから、僕自身、学生と一緒にSカレに長らく参加しながら、この仕組みをもっと生かす為にはどうしたらいいか考えてきた。今回の分析は、自問自答という側面もある。

以下では、実際にSカレに協力し、参加してくれてきた2つの企業へのインタビューを通じ、ユーザー参加型製品開発についての理解を深めていくことにしたい。彼らは、何を期待しながらSカレに参加してくれているのだろうか。また、その期待は実際の活動の中でどのように変化してきたのだろうか。そして、そうした変化は、Sカレやユーザー参加型製品開発にとってどんな意味を持っているのだろうか。