すき家の勝因は「安さ」ではない!

須藤実和 
慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科教授

東京大学理学部卒業、同大学理学系大学院修士課程修了。公認会計士。博報堂、ベイン・アンド・カンパニーなどを経て、独立。教鞭をとる傍ら経営コンサルタントとしても活躍。著書に『実況LIVEマーケティング実践講座』など。

業界1位の企業にキャッチアップするために、商品の値下げや品質向上に努める2番手、3番手。よく見かける構図だが、このやり方でトップの座を奪うことは難しい。

業界1位が築いてきたブランドは強力だ。同じ価格や品質を提供したとしても、消費者は「しょせん2番手」とレッテルを貼り、同等に評価してくれない。仮に価格や品質の競争に持ち込めても、もともとスケールメリットがあってリソースが豊富な1位企業にはアドバンテージがある。業界1位と同じ土俵に立っているかぎり、逆転することは困難だ。

1位企業にキャッチアップしようとするとき、多くの企業は「4P」にいきなり飛びつく。4Pとは、マーケティングミックス(差別化の具体策)を構成する、(1)製品(Product)、(2)価格(Price)、(3)流通(Place)、(4)販促(Promotion)という4つの要素を指す。具体的には、製品の改善を図る、価格を下げて訴求力を高める、あるいはインターネットで直販する、テレビ広告を展開するなどの手段が考えられる。

たしかに4Pはマーケティングに欠かせない要素だ。しかし、戦略を実現するための手段にすぎないことに注意したい。戦略抜きに製品を開発したり価格設定しても、先に挙げたように1位企業と差別化することは難しく、ブランドやスケールメリットの壁に跳ね返されてしまう。

戦略は、4Pの前に策定されていなければならない。市場をグループ分けして自社に合った市場を探し(セグメンテーション Segmentation)、どの市場を狙うのか絞り込み(ターゲティング Targeting)、その市場で他社と差別化を図るためのコンセプトを決める(ポジショニング Positioning)。この手法は、それぞれのプロセスの頭文字をとって「STP」と呼ばれる。経営学者フィリップ・コトラーが提唱した、マーケティングの代表的な手法の一つだ。このSTPがあってはじめて4Pがトップ逆転の有効な手段になりうるのである。