首都大学東京准教授 水越康介(みずこし・こうすけ)●1978年、兵庫県生まれ。2000年神戸大学経営学部卒、05年神戸大学大学院経営学研究科博士後期課程修了。首都大学東京研究員を経て、07年より現職。専門はマーケティング論、消費者行動論。主な著書として、『企業と市場と観察者』『Q&A マーケティングの基本50』『『仮想経験のデザイン』(共著)『マーケティングをつかむ』(共著)など。 

楽天という企業

アマゾンの2000年頃の変化をみてきたが、今度は楽天をみてみよう。楽天の歴史については、『成功のコンセプト』『教祖降臨』『楽天の研究』など、いくつか内容のまとまった書籍が発行されている 。いずれも相互に参照し合っているようだ。同じ文言が並んでいたりする。これらをもとに、やはり2000年ごろに注目しながらみていくことにしたい。

『成功のコンセプト』
三木谷浩史/幻冬舎/2007年 





『“教祖”降臨 楽天・三木谷浩史の真実』
児玉博/日経BP/2005年 





『楽天の研究』
山口敦雄/毎日新聞社/2004年 




楽天もずいぶんと早い頃から注目されていた企業(当初は楽天市場という一サービス)だが、当初の事業開始に際しては3つの選択肢があったのだという。(1)地ビールを売り物にしたレストランチェーン、(2)天然酵母のパン屋のフランチャイズ、(3)インターネットによるショッピングモールである。これらは、当初のエム・ディ・エム(あるいはさらにそのもととなっているクリムゾングループ)がコンサルティングを中心とした企業であり、そのやり方をうまくいかす事業が考えられたようだ。

これらの選択肢の中から電子モールが選択されることになるが、その理由は必ずしもはっきりとしない。三木谷氏個人にとっては、このビジネスが一番飽きないだろうと考えたとある。インターネットの普及は大きな追い風だったが、少なくとも電子モールというビジネスについていえば、その当時にあっては決して将来性があるとは考えられていなかった。すでに類似した電子ショッピングモールが大手企業によって開始されるとともに、そのほとんどがうまくいっていなかったのである。

創業者メンバーは、既存のやり方がどうしてうまくいっていないのかを分析した。多くの課題が考えられたが、値付けやこのビジネスに賭ける意気込みといった当然の課題を別にすれば、2つの重要な点がみえてきた。

一つは、出店までのアプローチに比べ、出店後の店舗へのフォローがなされていないということであり、システムの問題もありホームページをリアルタイムに更新することもできないのが普通だった。もう一つは、消費者からのクレーム対応等については各店舗が行なうのではなく、直接モール運営元へ連絡がいく仕組みになっており、消費者と店舗のコミュニケーションがあまりなかった。

楽天は、独自に使いやすいシステムを開発する共に、運営を支援するなど店舗へのフォローを厚くし、出店者に対する教育やサポートはもちろん、コンピュータに詳しくない店舗でも出店しやすい環境を目指した。当初にあっては、出店を希望する店舗と一緒に秋葉原に行ってパソコンを購入し、ISDNをつなぎ、さらにはキーボードの打ち方までレクチャーするということをしていたのだという。

その一方で、もう一つの消費者とのコミュニケーションについては各店舗側に任し、消費者の声を店舗が直接聞くことで、事業運営の材料にしてもらうことにした。この判断は、店舗に負担を強いるものであるとも考えられたが、クレームを含め、消費者の声を聞き、直接コミュニケーションをとることが重要なのだと判断したとされる。今からみれば、楽天が成長できた大きな原動力になったと三木谷氏自身が自著のなかで述べている。