首都大学東京准教授 水越康介(みずこし・こうすけ)●1978年、兵庫県生まれ。2000年神戸大学経営学部卒、05年神戸大学大学院経営学研究科博士後期課程修了。首都大学東京研究員を経て、07年より現職。専門はマーケティング論、消費者行動論。主な著書として、『企業と市場と観察者』『Q&A マーケティングの基本50』『『仮想経験のデザイン』(共著)『マーケティングをつかむ』(共著)など。 

2つの企業

前回、電子書籍について少し調べてみた 。電子書籍が、インターネットと紙の板挟みになっていることが興味深かったのだが、それとは別に、調べていて面白いかもしれないと思ったことがあった。それは、楽天とアマゾンの比較である。電子書籍というと、これまではアマゾンとアップルといった組み合わせが一つの定番だったが、ここにきて楽天のプレゼンスが高まっている。

→「3度目の電子書籍元年 上下」
http://president.jp/articles/-/7212

そこで思い返してみたのだが、楽天もアマゾンもネットストアの先駆けである。方や日本、方やアメリカということで背景も異なるし、当然企業の歴史も異なっている。現在のビジネスも異なっていそうだが、改めてこの2社を比較してみるというのはどうだろう。ちょうど、中央公論の2011年6月号に三木谷社長へのインタビュー記事が載っている 。タイトルはズバリ「楽天はアマゾンに勝てるのか」である。この記事でも、アメリカ型と日本型でビジネスモデルが違うと書かれているが、この比較そのものが何かしら魅力的な視点だということは想像できる。

→「楽天はアマゾンに勝てるのか」
http://www.chuokoron.jp/2011/05/post_77_5.html

アマゾンの創業は1995年、ジェフ・ベゾフ氏による(前身となるインターネット書店Cadabra.comは1994年に設立されている)。対して、楽天は1997年に楽天市場として、三木谷浩史氏が設立したエム・ディー・エムで開始された。創業者をみてみると、年齢は1歳違いで、ベゾフ氏は1964年1月生まれ、三木谷氏は1965年3月生まれと近い。さらに、創業に至るまでの経緯についても、ともにコンサルティング関連でノウハウを培ってきたことなど共通点を見いだすことができる。この辺りのプロフィールはさすがWikipediaが詳しい。書籍などでもみてみたが、似たようなものだった。

ビジネスの展開ということでいえば、周知のように、アマゾンは書籍のネット販売から始まり、今では幅広い商材をとり揃えた一大ネットストアとなった。その売上は年々増加しており、2011年度では500億ドル(4兆円:1ドル80円換算)に達する勢いである。この規模は、さすがにウォルマートの4000億ドル(32兆円)に比べればまだまだだが、2兆円規模のイトーヨーカドーやイオンといった国内大手小売店と比べると、相当な大きさであることがわかる。一方の楽天はというと、楽天市場とよばれたように最初はモールとして始まり、やがて書籍も取り扱うようになった。早い段階から旅行や証券、銀行業にも進出し、今ではコングロマリット化している。2011年度の売上は約4000億円、こちらも確実にその額を延ばし続けている。

それぞれ上場している企業であるから、アニュアルレポートが公開されている。アマゾンであれば自社ホームページ 、それから楽天であれば、自社ホームページはもとよりEDINET 上から詳細な資料をダウンロードできる。株価を重ね合わしてみることもできるかもしれない。

大体の概況がわかったところで、まずはアマゾンの歴史からふりかえっていくことにしたい。今回注目したいのは、現状や未来というよりも、2000年前後の歴史である。このころをみることで、逆に現状や未来が見えるのではないかと思っている。