金利と株に比べて為替は難しい

私は為替のトレーダーだと思われていることが多いが、モルガン銀行では銀行の自己勘定での取引を行っていた。プロプライアトリー・トレーディングという。この投資で最も利益をあげたのは金利商品。次いで株式。3番目が為替だった。為替は難しいのだ。私は長期的な視点で投資をするが、金利と株は、ある程度、経済原理が働く。景気の方向を読み取れば株と金利の予想は当たりやすい。

一方、為替は予想が難しい。何が最終的に為替レートを決定するかは、よくわからないというのが本当のところだろう。特に短期的な為替の動きは、いま市場が何に注目しているかの見極めがポイントだ。為替は美人投票と言われるゆえんである。

1日の時間帯では日本時間の午後10時半(ニューヨークが夏時間の場合は、午後9時半)に大きく為替が動くと言われる。その時刻に多くの米国経済指標が発表されるからだ。日本で市場の方向自身が変わることはあまりなく東京市場では米国市場のトレンドを引き継ぐことが多い。

午後10時半に動くのは為替だけではない。私がモルガン銀行でディーリングをしていたころには、米長期金利つまり米国債のマーケットも大きく動いた。当時、注目されていた指標はマネーサプライ(通貨の流通量)だ。エコノミストの仕事も、マネーサプライの増減を予想することだけと言っても過言ではなかったほどだ。マネーサプライが増えるとインフレ懸念が出てきて、結果として長期金利が上がるからだ。私も家で食事を取った後に車を運転して会社に戻り、午後10時半頃には、みんなでモニターを凝視していたものだ。

出典:報道資料をもとに編集部作成

FRB(連邦準備制度理事会)の職員が、インサイダー取引で、逮捕されたこともあった。この職員は、窓のブラインドを上げ下げして、外部の人にマネーサプライの増減を伝えていた。マネーサプライの数字によって瞬時に国債価格が大きく振れたからだ。1分でも早く情報を知った外部の人間が、それで大もうけすることができたのだ。

為替の場合、米国の金利が上がって日米の金利差が開くとドル円相場が動くことがある。その場合、投資家が米国債を買うために日本国債を売って円をドルに替えるから、ドル高・円安になると説明されることが多いが、実際はそんな悠長なプロセスを踏まない。

為替の先物市場でのドル買いが直物のドル買いを引き起こすからなのだが、このようなことは為替の教科書には書いていない。実需よりも、まずは投機筋が経済データに反応することにより、為替が動くのだ。

為替は短期的には予測できないが、長い目で見れば国力を反映するものだと思っている。しかし、最近のドル円相場は国力を反映しているとは言い難い。バブル経済絶頂期で日本経済が大変に強かった頃に、1ドルは140円前後だった。それが、いまは景気も悪く財政も大赤字で1ドル200円になってもおかしくないのに、逆に円高になっている。このせいで日本経済が低位安定してしまった。

ドル円相場が国力を反映していないのは、日本のマーケットが整備されておらず経済原理が働いていないためだ。世界最大の金融機関であるゆうちょ銀行が金利1%そこそこの国債を買い続けている。本来なら高いリターンを求めドルにも分散投資すべきなのに、そうしないから金利が低位安定し円高が続いている。その点からしても日本は社会主義の国と言っていい。市場原理が働かないから円高が続き企業の競争力も復活しない。市場をきちんと整備することが日本の急務と言えるだろう。

※すべて雑誌掲載当時

(構成=原 英次郎)
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