報告書の必須条件は、仕事の成果である出口と日程の時間軸がきちんと書かれていること。ストーリーの展開にメリハリがきいて起承転結がはっきりしていること。そして簡潔なことはいうまでもありません。この条件は報告書であれ、研究発表や経営会議での報告であれ、重要なポイントになります。報告を受ける側は忙しい立場の人が多く、だらだらと報告されてはかないません。

私が報告書で鍛えられたのは、1973年から5年間のシカゴ駐在でアメリカ中西部を1人で担当したときのことです。当時、日本とのコミュニケーション手段は手紙と国際電話、テレックスの3つしかありません。国際電話は料金が非常に高く、事業部は認めてくれません。ローマ字表記のテレックスは、ちょっとした連絡でもロール紙が長々と吐き出され、膨大な量になりました。

そのためほとんどが手紙による報告でしたが、手紙の往復、事業部での検討時間を入れるとビジネスサイクルは3週間にもなります。無駄を省き、長文にならぬよう心がけました。

仕事の文書は上司に読ませ、自分の考え方に賛同してもらい、支援を得るのが目的です。読む人の気持ちに立って書くのでなければ、日記を書いているのと同じこと。私はA4サイズで5、6枚になる叩き台の考えを、1枚にまとまるまで推敲を重ね、日本へ書き送っていました。

もちろんワープロなどありません。手で認めていましたが、手書きは大変な頭の訓練になります。ワープロで書いたからといって、考えていないわけではありませんが、簡単に修正ができるため、頭の中で思考を醸成させて文章化する作業は少なくなっているはずです。私もつたない字で報告書や起案書を何回も書き直したものですが、書き始める前には構成をしっかり考えていました。

いまは報告書もメールで送られてくることが多くなっています。パソコンを使った報告書は字も読みやすく、見た目も綺麗に仕上がっているため、立派なことが書いてあるように思えますが、幹部の文章でもじっくり読むと内容がよくわからないものがある。報告書に限らず、徹底的に熟考して書く「手書き感覚」を忘れてはいけません。