米企業が欲しがる将校クラスの軍人

BRIICS(ブラジル、ロシア、インド、インドネシア、中国、南アフリカの6カ国)を中心とする新興国の目ざましい成長が、世界を根底から変えていく。人、モノ、カネ、情報は自在に国境を越え、ボーダレス経済はさらに加速度を増し、ネットの普及によって様々な業種で経済活動の中心地がサイバースペースに移り、デリバティブやヘッジングなどのマルチプル経済が為替や株価を日々揺さぶる――。これに実体経済が重なった新しい経済大陸は、古い経済世界を侵食し、目には見えない版図を拡大し続けている(拙著“見えない大陸”、邦題『新・資本論』参照)。

デジタルカメラの急速な普及でコダックや富士フイルムなどのカメラ、フィルムメーカーは事業再建に追い込まれ、携帯音楽プレーヤー「iPod」の登場によって米タワーレコードは倒産し、ブロックバスター(米ビデオレンタルチェーン最大手)は連邦破産法に追いやられた。同様に「iPad」や「キンドル」は出版の世界を一変させるかもしれない。

今という時代を生きている以上、誰もが否応なく「見えない大陸」の住人となり、うかうかしていたら競争と淘汰の大波にあっという間に呑み込まれてしまうのだ。つまり、旧来の戦略が通用しない新大陸で生き残るための方法論が、今まさに模索されているのだ。

アメリカの経済誌「フォーチュン」(2010年3月22日号)に注目すべき記事が掲載されていた。イラクやアフガニスタンでの駐留経験を持つ若い将校を積極的に採用する米企業が増えているというのだ。従来の軍事産業だけではなく、最近はGE(ゼネラル・エレクトリック)、ウォールマート、AT&Tやバンク・オブ・アメリカ、ペプシコ、メルクなど様々な業界に広がっている。

米企業が軍人を積極的に採用するようになった背景には、Company(自社)、Competitor(競合)、Customer(顧客、市場)という3つのCが固定的に定義できなくなり、すべてが動く標的になった事業環境の変化がある。