身近な話題に経済理論を使う

<strong>経済学者 水指丈夫</strong>●東大経済学部卒業、同大学院修了。某大学で教鞭を執る傍ら、政府系シンクタンク研究員などを務める。
経済学者 水指丈夫●東大経済学部卒業、同大学院修了。某大学で教鞭を執る傍ら、政府系シンクタンク研究員などを務める。

もちろん東京大学を卒業しても社長にはなれます。問いを正確に言い換えるとすれば、「東大を含む有名大学を出ると社長になりにくい」とすべきでしょう。

ここでの「社長」とは出世のゴールとしてのサラリーマン社長ではなく、起業して成功したオーナー経営者を指しています。東大生を含む有名大学の学生は、相対的にさほど苦労なく大企業の正社員になることができる。ところが起業の際には、平均して恵まれている給料や待遇を捨てなくてはいけません。このとき捨てることになる給料や待遇を、経済学では「機会費用」といいます。東大生は起業のための機会費用が高い。すなわち社長になりにくいわけです。

経済学や経営学のロジックは為替や金融政策、企業経営だけでなく、身近な話題にも応用できるものです。たとえば、なぜ民主党と自民党の政策には大きな違いが生まれないのでしょうか。

仮に有権者をそれぞれの政治信条に沿って保守から革新までの直線に並べてみてください。二大政党制の場合、どんな政策を主張すべきでしょうか。政策を左右のどちらかに振れば、ライバルに逆側を取られます。政策の競争が起きると、2つの政党は最大の票を得るために似たような中道の政策を主張することになる――。これは経営学で「競争戦略」として理論化されています。

このように応用度の高い経済理論ですが、日本は欧米に比べて、とくにビジネスの分野で経済学に親しみをもつ人が少ないようです。天才経営者の手法が賞賛を集める一方で、「外国仕込み」のやり方には非難が集まる傾向があります。