手紙、レポート、単行本、ブログ……。ひと口に文章といっても、いろいろな種類があります。それぞれ目的や読者が違いますから、それにふさわしい筆致やトーンも決して同じではありません。したがって、TPOを踏まえて書くというのが、いい文章の第一歩だといえるでしょう。

誰に何を伝えたいかによっても、文章の書き方は変わってきます。たとえば、書物の場合、読者は僕のことを直接知らない不特定多数です。当然、理解度にも差があるし読み方もさまざまでしょうから、最初に最大公約数を想定し、その人たちに向けて僕の思想や哲学、あるいは経済や経営に関する考え方が、できるだけ正確に伝わるような書き方をするようにしています。

<strong>SBI HD CEO 北尾吉孝</strong>●1951年、兵庫県生まれ。慶應義塾大学経済学部、ケンブリッジ大学経済学部卒。74年、野村証券入社。ソフトバンク常務などを経て、2003年6月から現職。「自分で話したことがそのまま活字になれば、それは頭の中が整理されているということです」
SBI HD CEO 北尾吉孝●1951年、兵庫県生まれ。慶應義塾大学経済学部、ケンブリッジ大学経済学部卒。74年、野村証券入社。ソフトバンク常務などを経て、2003年6月から現職。「自分で話したことがそのまま活字になれば、それは頭の中が整理されているということです」

また、僕の本は海外でも出版されていますが、厳密にいうと、中国語や韓国語、英語などに翻訳された時点で、それはすでに僕の文章ではありません。しかし、たとえ翻訳を経て筆致が変わっていようと、元の文章にこれを訴えたいという強い意志が宿っていれば、その部分は必ず読者に届きます。

僕はこのことを、かつて北京大学の学長と会食したときに感じました。彼は、中国で出版された僕の本をよく読んでいてくれていたので、僕が何に関心をもち、どのような考え方をする人間かということを、ちゃんとわかっておられた。おかげで、初対面にもかかわらず、まるで百年の知己と会ったかのように、大いに会話が弾みました。

時間をかけてよく考え、自分の血肉となった思想や哲学を吟味した言葉で書き記すのが書物なら、そのとき思ったことをパッと書いてサッと発表するのがブログです。

僕は自分のブログを、SBIマネーワールドという弊社が運営するSNSにアップしています。これは、SBI証券に口座をもっている人しか読めないので、読者数は現在のところ8万数千人というところでしょうか。読者たちに向けて、その時々で僕が関心をもったテーマを取り上げ、感想や意見などを書いています。

ただし、熟慮の時間を経ていないうえに、基本的に校正もしないので、本に比べればはるかに隙の多い文章にならざるをえません。内容に関しても「自民党政権の終焉」と書いたらすぐに、西松建設事件で小沢一郎民主党代表の公設第一秘書が逮捕され、麻生首相の支持率が盛り返すというように、思いもかけないことが起こって予想が外れるケースもままあります。

けれども、ブログの読者は、時局や政局、経済、相場などを僕がどのように洞察し、論じるかを、できるだけリアルタイムで知りたいのですから、僕としてはそちらを優先したい。それで、文章が粗かったり、多少の勇み足があったりという点には、目をつぶってもらうようにしているのです。