いつでも誰でも気軽につくれて一生有効

遺言というと親世代を思い浮かべる人が多いかもしれませんが、現役世代も他人事ではありません。遺言がないと、残された家族は経済的にも大きなリスクを背負うことになります。

まず、遺言書がないと相続手続きが複雑になりやすく、遺族に大きな負担がかかります。財産の名義変更のために必要な書類を取り寄せるだけでも結構大変で、この諸手続きを専門家に依頼すると、20万~30万円程度の費用がかかります。遺産分割協議で揉めると、もっと大変です。私が相談を受けた中には、遺族が預貯金を引き出せず生活費に困ったり、相続人の1人が勝手に不動産を売却した例もありました。それが裁判に発展すると、訴訟費用もかかります。家族を余計なトラブルに巻き込まないためにも、元気なうちに遺言書を作成すべきでしょう。

生命保険と「遺言書」はセットで考えて備える
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生命保険と「遺言書」はセットで考えて備える

遺言書には、「自筆証書遺言」と「公正証書遺言」の二種類があります。自筆証書遺言は自分で書いて保管する遺言書ですが、書き方に不備があって無効になったり、紛失や隠匿、偽造、変造の恐れがあり、必ずしも自分の意思どおりに執行されるとは限りません。また開封には家庭裁判所の検認が必要で、手続きに約1~2カ月を要します。その間に相続人の誰かが勝手に財産を処分するリスクもあります。むしろ自筆証書遺言に不備があることでトラブルになることもあるので、できれば公正証書遺言が望ましいと思います。

公正証書遺言は、遺言者の意思に基づいて公証人が作成し、原本は公証役場に保管されます。公証人が作成するので様式不備で無効になるリスクが小さく、紛失や偽造の心配もありません。また家庭裁判所の検認が不要なので、亡くなった後にすぐ執行できます。

公正証書は、全国に約300カ所ある公証役場で作成できます。初回の打ち合わせは電話でも可で、公証役場に出向く場合は本人でなくても構いません(遺言者の印鑑証明が必要)。そこで戸籍謄本などの必要な書類を預けて、今後のスケジュールや遺言の内容を決めます。通常は2~3回、打ち合わせをして文面の推敲をしてから、最終的に日時を決めて作成します。公証人が記載をミスする場合もあるので、必要書類のコピーを取っておき、自分で確認したほうがいいでしょう。作成には証人2人が必要ですが、証人のあてがなければ公証役場で紹介してもらえます(謝礼の相場は1万円前後)。

気になる費用ですが、公証人手数料は相続総額や相続人の数によって異なります。ただ、遺言手数料や用紙代などと合わせても数万円程度。現在、生命保険に入っている方は多いと思いますが、生命保険が遺族の将来のための金銭的な保障なら、遺言書は遺族の現在の生活を守るためのもの。生命保険1カ月分程度の費用で家族の生活が守れるなら、けっして高い出費ではないはずです。

(村上 敬=構成)