アサヒグループホールディングス社長 泉谷直木(いずみや・なおき)
1948年、京都府生まれ。72年京都産業大学法学部卒業後、アサヒビール(現アサヒグループホールディングス)入社。86年広報企画課長、95年広報部長、98年経営戦略部長などを経て、2003年取締役に就任。06年には常務酒類本部長に。09年専務昇格、10年3月より現職。

部下を待たせたらその分だけ損失

仕事のスケジュール調整はほとんど秘書に任せています。来客であれ社内の打ち合わせであれ、要請があったものは基本的に「全部受けてください」と頼んであります。これは歴代社長のやり方から学んだことです。

アサヒグループホールディングス社長 泉谷直木氏

現アサヒビールでは社長室の扉はいつも開けっぱなしです。扉だけではなく、スケジュールもメールも全部オープンにして、みんなと一緒に仕事をしていくというスタイルです。これを受け継ぎ、続けていきたいと思っています。

ただ、予定を受けるときには一つだけ注文をつけています。事前に資料を用意し、面談の目的を明確にしておいてほしいということです。資料がないとか、説明の焦点がぼやけているようなときは、もう一度考え直してもらいます。

というのも、社長という仕事は猛烈に忙しく、漫然とした会合に時間を費やすわけにはいかないからです。

大まかにいって、社長の時間は「4倍速」で進みます。専務時代は1時間単位で仕事をしていましたが、社長就任後はそれを30分単位に圧縮しました。しかもそのなかで、2倍近い分量をこなしているというイメージです。判断のスピードは2倍から4倍に上がっています。

スピードを確保するため、事前に資料を読み、面談なり会議の目的や経緯、判断材料を頭に入れておくようにしています。そうしておけば、一コマ30分のうち冒頭10分にくるはずの「説明」部分を省くことができ、全体に中身の濃い仕事ができるのです。予定を入れる前に資料が必要だというのはそのためです。

時間が貴重なのはトップだけではありません。気をつけているのは、「部下を待たせないようにする」ということです。

僕はいつも複数の仕事を同時に進めるほうです。一つの仕事が中断しても、特に困ることはありません。読書も同じで、読みさしの本が手元に何冊も置いてあります。

たとえば電子メールを書きかけているところへ、報告のために部下がやってきたとします。僕は絶対に「後にしてくれ」とは言いません。自分の仕事は自分の生活のなかで調整できますが、部下を待たせたらその分だけ彼の仕事がストップします。会社にとって損失です。

能率手帳の右ページをノート代わりに使い、これから会う相手の情報や提案したい内容、会ったあとには話したことを赤字で書き込む。

だから僕は、部下がやってきたらすぐに手を止めて報告を聞きます。自分の仕事は、5分でも10分でも空き時間ができたときに続ければいい。ひどいときは、朝一番に返信のメールを2~3行書きかけたところで部下の話を聞くことになり、そのまま夕方5時半まで手を付けられなかったこともありますよ(笑)。

僕自身が予定管理に使っているのは、小型の能率手帳です。ここへパイロットのシャープペンシルで、スケジュールとメモを書き込んでいます。20数年来、変えていない習慣です。

僕はこの手帳に、「記録」と「記憶」と「アンチョコ」の3つの機能を持たせています。記録とは予定を含むスケジュールを指し、記憶とは相手と面談したときの覚え書きです。

最後のアンチョコというのは、経営理論や会社の長期戦略など経営判断に際して原理原則となる事柄です。書物から引用しているものもあれば、独自作成の資料もあります。