宮崎俊一(みやざき・しゅんいち)
1965年、北海道生まれ。89年松屋入社。96年より紳士服バイヤー。年2回の催事「銀座の男」市では、国内の仕立て職人とつくる 「丸縫い既製スーツ」が大反響を呼ぶ。毎日新聞での連載、青山学院大、法政大等で講師としても活躍。

松屋銀座のカリスマであり、2週間で5億を売る催事「銀座の男」市の仕掛け人でもある紳士服バイヤーの初めての著書だ。

お洒落の初心者であれば、3章の「ワードローブの基本」から読み始めてもいい。最初に買うスーツはミディアムグレーの無地、シャツは白を3枚、ブルーを2枚、ストライプを1枚、ネクタイはすべて紺ベースで、ドット柄、レジメンタル、小紋柄の3本、靴は……。

「マニュアルにできるのは3章から。クリーニングから戻ったシャツに、手持ちのネクタイをどう組み合わせても様になって、毎日コーディネートが平均レベルを超えるには何かなと考えていって、こうなりました。スーツもミディアムグレーを基本で持っていれば、シャツの合わせでバリエーションが出せます」

紺ではなくミディアムグレーを1着目にもってきたのは、ほかにも理由がある。同じ価格帯であればグレーのほうが光沢と高級感が出やすいからだ。

バイヤーといえば通常は商品を売るだけだが、宮崎は私費で現地に足を運び、独学でイタリア語を習得して生地を買い付け、いまでは生地を織る糸のデザインまで提案してしまう。送り出す商品のクオリティには、業界関係者も舌を巻く。

「よく読むと、百貨店で10年やっているバイヤーでも知らないことも載せてあります」

刊行以降、付箋を貼り、蛍光ペンで線を引いた本を手に、宮崎の売り場を訪れる人も。足もとまで、本に書かれたとおりに揃える男性もいるという。

「7万円、8万円の商品を買うときに、家電製品だったらネットで調べて何軒もハシゴするのに、スーツだと5分で決めてしまう人が多い。それに生地や縫製のことをいう前に、日本人のほとんどはスーツのサイズが合っていません。失敗して学習しないで、また失敗するのでなく、せめて投資する金額をムダにしないでほしい。それには最低でも10着は試着することです」

宮崎を信頼する客からの相談も多い。

「日本の企業でも輸出が9割というようなお客さんで、取引先を毎日のように成田に迎えにいくというときに、何を着るか。たとえば一言でクールビズといっても、概念であって決まりではない。インターナショナルな場で上着なしのクールビズがありえるのか。ヨーロッパでもアジアでも、ある程度の年収のビジネスパーソンで、上着なしというのは考えられません。まず相手に失礼がないこと。そして義務感からでなく、装うことを楽しむのでないと、クールビズは成立しません」

(若杉憲司=撮影)
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