きちんと成果を出しつつ、自分の仕事を丁寧に整理していた社員が、突然解雇されたのはなぜか。そこにはリーマンの倒産劇と意外な接点があった。

エース社員リサは、なぜ、解雇通知を受けたのか

リサ(仮名)は大手銀行の人事部で中位のポジションにおり、5年にわたって毎年、傑出した成果評価を受けていた。彼女はまじめで、仕事の期限をきちんと守り、上司としっかりコミュニケーションをとっていた。責任感が強く、病気や休暇で自分が休んだとしても、その間に出てくる問題や依頼にほかの社員が難なく対応できるよう、自分の仕事をきちんと整理していた。

ところが数カ月前、彼女は解雇された。

皮肉なことに、彼女は前述の「すばらしい労働習慣にかかわらず」解雇されたのではなく、逆に「すばらしい労働習慣のせいで」解雇されたのだ。

この点をもっとよく理解するために、時を1年ほど遡って金融危機の後、アメリカ政府がAIGを救済したときのことを考えてみよう。AIGは「潰すには大きすぎる」と、アメリカ政府は主張した。

「その余波はアメリカ経済のあらゆるところに及ぶだろう。世界中がその影響を受けるだろう。倒産させるという選択肢はありえない」。こういう理屈で、AIGを存続させるために何十億ドルもの公的資金が投入された。

それに対し、リーマン・ブラザーズが倒産の危機に瀕したとき、政府は、この銀行は潰せないほど大きいわけではなく、ほかに妙案もないのだから、倒産させるのが一番だと判断した。その結果、リーマンは倒産したが、その後、アメリカ経済は坂道を転げ落ちるように悪化した。政府の読みは外れたのだ。