>>前回のあらすじ2000年代後半、次々と「自己啓発書ガイド本」が出版された。なぜ、あれほどの数のガイド本が出たのか。それを誰が何のために読んでいたのか。今週はその背景を読み解く。

TOPIC-3 「自己啓発書を正しくたくさん読む私」の登場

まず単純には、「ガイド」という形式の本が成立するというくらいに、国内の自己啓発書市場が拡大してきたということがいえます。拙著『自己啓発の時代』でも書いたことなのですが、ベストセラーランキングでは1990年代終わりごろから、人々の生き方・働き方・考え方を扱う本が多くみられるようになってきています。出版業界の中からも、出版不況といわれる近年にあって、ビジネス書、広くいって自己啓発書の売れ行きが好調であり、販売促進に力を入れるべきジャンルだという声が挙がっています(『日販通信』2007.10、2009.2など)。

このような状況のなかで、次々と自己啓発書が出版され、また参入する出版社も増え、そしてベストセラーも続出しているわけです。さらにベストセラーの二匹目、あるいは三、四、五匹目のドジョウを狙って、似たような自己啓発書がさらに続々と刊行されています。

市場が拡大し出版点数が積み重なっていくなかで、「(自己啓発書という)情報の海で溺れたくない」「時間とお金を無駄にしたくない」として、「ガイド」へのニーズが生まれてきたとみることができます。もちろん、そのようなニーズはときに「ガイド」の担い手自身が煽ることでもあります。また、読み手の「無駄にしたくない」という意識、特に金銭に関する意識は、編集者や書店員が口を揃えていうには、リーマン・ショック以降にかなり顕著であるようです。

もう一ついえるのは、「自己啓発書の主張の根拠」が変わりつつある、もしくはその新たなパターンが生まれつつある、ということです。従来の自己啓発書の主張(「このように行動すれば成功する、なぜなら……」)が成り立つ根拠の第一は、その書き手自身が、自らの事業において成功していることでした。松下幸之助しかり、本田宗一郎しかり、比較的近年であれば稲盛和夫しかり、柳井正しかりです。

根拠のパターンとしてはもう一つ、専門家による解説・アドバイスというものもあります。その「専門性」には色々パターンがありますが、たとえば(こういう学問領域は厳密にはないと思うのですが、いわゆる)脳科学や医学、心理学などをまず挙げることができます。より広く考えれば、五木寛之さんのような文学領域の大家から、瀬戸内寂聴さんのような作家/僧籍、江原啓之さんのような「スピリチュアル」な立場まで、その「専門性」にはさらにバリエーションがあるといえるでしょう。