D4DR社長/コンサルタント 藤元健太郎(ふじもと・けんたろう)●1967年東京都生まれ。1991年電気通信大学電気通信学部卒。野村総合研究所在職中の1994年からインターネットビジネスのコンサルティングをスタート。日本発のeビジネス共同実験サイトサイバービジネスパークを立ち上げる。2002年よりコンサルティング会社D4DRの代表に就任。日本初のCGMサイト関心空間社取締役、経済産業省産業構造審議会情報経済分科会委員、青山学院大学ExectiveMBA非常勤講師などを歴任。

必要なかった日本企業におけるマーケティング

極端な話、多くの日本企業においてマーケティングは必要なかったといえるだろう。営業体制をしっかりしていれば商品は売れた。しかし、今後国内市場は人口の減少で縮小する内需の争奪戦になる。グローバル市場においてはロースペックな新興市場と成熟した先進国での戦略は完全に異なる対応を迫られようとしており、これまで日本の特に製造業の強みであった品質のよい製品を適正なコストで市場に出していけば席巻できた成功体験は通用しなくなりつつある。そして前回述べたようにITがもたらすコミュニケーション革命は商品の選択プロセスを変えつつある。まさに競争に勝つために日本企業においてはかつてないほどマーケティングの重要性が高まっている段階にきている。

差別化しなくてはいけないという意味では、同じような商品をマーケティング力によって競争力を高めていたように見える商品に飲料がある。しかし、これまで重要視されてきたのは営業である。小売りの店舗の棚のよい場所を現場の営業が確保できるように「これだけ宣伝にお金かけていますよ」という意味で大量のテレビCMを投下する側面支援の面が強かった。つまり地上戦と空中戦でいえば、日本企業は地上戦を戦う営業部隊が最重要であり、テレビCMなどマーケティングプロモーションは地上部隊を支援するための空軍の援護爆撃であったといえる。そしてその営業部隊が相手にしているお客さんは小売り店舗の担当者であり、エンドユーザーではない。よい商品を作れば営業が力で押し込む。この構図が長らく続いた日本企業においてはマーケティングセクションの力は弱く、専門的な知識やノウハウを持っている人材も育っては来なかった。

すでに新しい仕組みを内在しているWeb担当セクション

しかしITによってダイレクトマーケティングが可能になったことで状況は変わりつつある。例えば自動車もディーラーをテレビCMで支援するという前述のスタイルの典型的な商品であったが、HONDAがS2000という車は市場に出した時に、あまりにニッチなスポーツカーであったのでテレビCMも投下できず、ディーラーに車を置くわけにもいかずという状況の中、当時力をつけてきたWebと電子メールを全面的に活用した。

→HONDA 元Webマスター渡辺氏のコラム
http://www.jagat.or.jp/story_memo_view.asp?StoryID=9251

結果として実に購入者の5割以上と事前・事後にダイレクトにメールマガジンとWebでコミュニケーションをとることができ、販売に大きな貢献をすることができた。つまりメーカーと言えども直接エンドユーザーと対話をしなければいけない状況にあったWebセクションは結果的にはマーケティング志向にならざるおえなかった。Webのコミュニケーションはまさに顧客ニーズを捕捉し、自社と商品の情報を的確に提供することであり、Webを訪れた人に対していかに適切な情報を提供するかのデザインマネジメントはコミュニケーションマネジメントの基本でもある。さらにWebのテクノロジーは顧客を可視化する部分も進んでいる。例えばアクセスログは顧客がどのようなキーワードで検索し、どのページから来訪し、どのページをどのくらいの時間見た上で購買した、もしくは帰ったというデータが取得できるのである。リアルな店舗ではPOSデータが限界であり、結果として買われたデータしかとれない。顧客の行動データからリコメンデーションする技術も進歩している。これもリアルな店舗ではできていないことである。マーケティングROIも長い間概念として提唱されてきていたが、それを多くの企業にとって現実にしてくれたのはSEMである。商品毎のコンバージョンレートとそれにより決まる入札価格により、リアルタイムで商品毎にかけるマーケティングコストとROIが可視化することが可能になった。

このように初めてマーケティングの専門のノウハウを貯めつつあるWebセクションであるが、残念ながらまだまだ社内的地位が高くない場合も多い。またWebだけを部分最適しても企業全体の最適にはならない。

『マーケティングROI』
ジェームズ・レンスコルド著 上野正雄訳
ダイヤモンド社