北島康介(水泳選手)

きたじま・こうすけ 1982年、東京都出身。身長178cm、体重72kg。5歳から水泳を始める。2000年、シドニーオリンピックに初出場(4位)。04年、アテネオリンピック100m・200m平泳ぎで金メダル。08年、北京オリンピックでも両種目で金メダルを獲得、日本人初の競泳2種目2連覇を達成。

惨敗だった。五輪3連覇を狙った男子100メートル平泳ぎ。日本のエース、北島康介は平凡なタイムで5位に終わった。

レース直後のミックスゾーン。ショックだったはずだ。それでも北島は記者に本音をきっちり、話し続けた。つとめて毅然としていた。「自分の力が出なかった点については悔しいし、せっかくの舞台で最高のパフォーマンスができなかったことも悔しい」。

質問にちょっと黙ったのは、ずっと世界記録を争ってきたライバル、アレクサンドル・ダーレオーエン(ノルウェー)さんについての時だった。右手に持つミネラルウォーターのペットボトルが小さく揺れた。

ダーレオーエンさんは4月、トレーニング中に心臓麻痺で急死した。26歳だった。ダーレオーエンさんは北京五輪の銀メダリスト。北島を育てた平井伯昌コーチのところに指導をあおぎにきたこともあるし、北島と一緒にトレーニングに励んだこともある。

ダーレオーエンさんの存在が、北島にとってはモチベーションのひとつだった。だが、ロンドン五輪の舞台にはいなかった。「彼がいないのはさみしい」と漏らした。

北島は目をしばたかせる。「彼がいたら、きっと最高のパフォーマンスをしていたと思う。ノルウェーの人もつらい思いをしたのじゃないかな」。ちょっと間をおく。「彼に対しても情けないレースをしてしまった」。

北島が200メートル平泳ぎで雪辱できるかどうかは、本人の持ち前の闘志に火が付くかどうかである。インタビューの最後に言い切った。「粘るよ」と。

「200メートルは粘るよ。最後まで粘る。自分はしなきゃいけないことがある」

(フォート・キシモト=写真)
【関連記事】
萩野公介、17歳 ロンドン五輪水泳代表
-神童スイマーの6年間
「人から言われるとカチンとくるけど」-藤原新
「最大の味方は自分だぞ」-加藤裕之
「我慢だ。ここで我慢しろ」-中垣内祐一
「金メダルは、非常識の延長線上にしかない」-松平康隆