自分の人生を本にしたい。仕事で培ったノウハウを世に伝えたい……。だが、そんなに甘くない!エッセイの達人が、人気ブロガー、さらにはプロ作家になるための4つの心得を開陳する。(>>前回の記事はこちら)

■プロのコツはこれ!
  「テーマ」「ロジック」「プロット」を考慮した文章設計を心得よ

下の例文は、出版不況のさなか、好調な業績を続けるPという老舗出版社の秘密を探る記事の書き出し。仮タイトルは『P社の秘密』としておこう。

会社概要ならこれでもいいが、なんとも魅力のない書き出しではないか。とりあえずデータや数字は入っているものの読み物になっていない。つまらない報告書を会社で10年も書かされていると、知らず知らずのうちにこういう文章スタイルが身についてしまっていることがあるので要注意である。では、同じこの記事に別の書き出しを当ててみよう。

×アマ文筆家によくある例

  P社の創業は1930年。現社長は藤原太郎である。今期は100億円の利益をあげ、20期連続で黒字を達成中だ。
  未曾有の出版不況の中、大手のA社、B社、C社はいずれも赤字に陥った。携帯電話やインターネットの普及、追い討ちをかけるかのように登場したiPad、キンドルなどの電子書籍端末の台頭。この業界を取り巻く環境はあまりに厳しい。そんな中、なぜP社は黒字を達成できるのか。その秘密に迫りたい。

続いて、次の例文をご覧いただきたい。

○プロ文筆家はこう書く!

  初夏の風が、プラタナスの葉を揺らしていた。この夏移転したP社の新オフィスは永田町のタワービルにある。編集部を訪ねると、巨大な一枚ガラスの窓の向こうに国会議事堂が見えた。
  やがて一人の男が笑顔で現れた。濃紺の麻ジャケットを涼しげに着こなし、右手に携えているのはiPadである。彼の指先がこの情報端末を起動するのを目にした瞬間、私は、P社がヒット企画を連発している理由に納得がいった。

こちらはノンフィクション系によくある書き出しの一つ。ややベタな感じはいなめないが、大事なポイントはきちんと押さえてある。すなわち、この話が進行する「時間と空間」を設定してそこへ読者を連れ込む工夫と、その心をぐっと引き寄せる「つかみ」の工夫である。

書き手は、まず夏の永田町の風景を読者に想像させたうえで、人物を登場させ、そしてこの社員を見ただけでP社の好調ぶりに「納得がいった」と書く。そう断言されると、読者は当然、どうしてそう思うのか? と先を知りたくなる。臨場感ある書き出しからスタートし、いきなり「結論」を提示してから、おもむろにその理由を明かしていく。つまり「帰納法」的な展開をしようというわけである。

こうした手順を立てる作業のことを「文章設計」という。文章にはまず「テーマ」があり、そのテーマをどういう理屈・論理で展開するかの「ロジック」、さらに、テーマと理屈をどう文章に仕立てるか、映画でいう筋書きに当たる「プロット」がある。

アマ文筆家は、まずこの3つのことを考慮しながら綿密な文章設計をするのがいいだろう。そのうえで、つぎのことにも意を用いながら肉付けをしていく。

文末を「だ、である」調にするか、「です、ます」調にするか。ロングセンテンス中心の重厚感ある文にしていくか、ショートセンテンスを多用してスピード感を出すのか。これらは「スタイル(文体)」の創出・設定という作業になる。

それから、洒落やギャグなど笑いの要素になる「ギミック」や、なにかになぞらえてものごとを語る「エピソード」の使い方をどうするか。文章設計ができれば、文章はもう書けたも同然なのである。

(大塚常好=構成)
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