「変人トルシエ」「自由放任ジーコ」「熱血漢岡田」……そして筆者は、「いい人ザック」と評する。選手たちも惚れる巧みな人心掌握術とは――。

リーダーシップ

部下を躍動させる「ナイス・パーソン理論」
神戸大学大学院
経営学研究科教授
高橋 潔

慶應義塾大学文学部卒。ミネソタ大学経営大学院博士課程修了。専門は産業心理学と組織行動論。著書に『人事評価の総合科学』『Jリーグの行動科学』など。

アルベルト・ザッケローニ監督が醸し出す印象は、まさに「いい人」だ。試合終了のホイッスルが鳴れば、ロッカールームへ戻る選手たちに「Grazie!」(ありがとう)と声をかけ、感謝の気持ちを示す。そんな姿に、長谷部誠や香川真司や本田圭佑や長友佑都が、心を許していく。

リーダーシップには、(1)偉大なリーダーが備えている特質から普遍性を見出す「特性理論」、(2)普通の人がリーダーに任命されたらとる行動に目を向ける「行動理論」、(3)置かれた状況と行動との因果関係を明らかにする「コンティンジェンシー理論」、(4)リーダーとメンバーの関係の質からリーダーシップの本質を明らかにする「交換関係理論」、(5)リーダーはメンバーから並外れた努力を引き出す精神性を持つべきだとする「カリスマ理論」などがある。

しかし、ザッケローニ監督のリーダーシップ・スタイルは、これらのどの理論からも説明できない。あえて名づければ、日本の組織に適した「ナイス・パーソン(いい人)理論」とでも呼べるものだろう。一人ひとりに配慮し、意思疎通が密で、部下に仕事を任せられる。だから、部下は上司の存在を忘れて、自然に活躍することができる。ピンチの場面になると上司は腰を上げ、難しい決断を行う。そういうスタイルだ。

そのためには、部下から慕われ、信頼関係を築ける「いい人」でなければならない。たとえはヘンだが、「宇宙戦艦ヤマト」の沖田艦長と共通するリーダーシップのイメージだ。