トヨタ自動車が独BMWとの提携関係を拡大させている。その最大の狙いは、次世代エコカーの本命と目される燃料電池車(FCV)で先行することにある。

世界的に環境規制が強化されていく2015年に、トヨタは500万円以下でセダンタイプのFCV量産を計画する。普及には水素ステーションなどのインフラ整備が不可欠であり、かつ心臓部である燃料電池(FC)のコストダウンも必要。いずれにせよ量産が必須となる。

このため、トヨタは単独ではなく陣営を形成することを決断した。15年までにFCシステムをBMWに供与し、20年までに新型FCを共同開発する。FCVの技術を他社に供与するのは初めて。

一方、これまでエンジン技術に自信を持ち、水素の燃焼などを研究してきたBMWは、FCVを頂点とする電動化技術でトヨタをパートナーに選んだ形だ。

FCとは、タンクにためた水素と空気中の酸素とを化学反応させて電気をつくる発電装置。FCVはFCを載せた電気自動車(EV)であり、走行中に水しか排出しない「究極のエコカー」。外部充電に依存し、リチウムイオン電池の性能に負うEVと違って、水素を充填するとガソリン車並みの航続距離を確保できる。

ハイブリッド車(HV)を持つトヨタとホンダが02年、世界に先駆けて日本政府などにFCVを納入したのは、2つのエネルギー源を制御・管理するハイブリッド技術がFCVの基本だから。当時は1台1億円ともいわれたが、燃料電池スタックの小型化などの技術革新により大幅なコストダウンを進めている。

問題は、水素の調達と運搬。特に調達では、化石燃料からの改質が有力だが、再生可能エネルギーとしての水素を生成する動きも始まっている。例えば、ブラジルの政府系エネルギーメジャー、ペトロブラス(本社リオデジャネイロ)は、サトウキビの搾りかす(残渣)を原料に水素とメタンガスを生産する実証実験に着手済みだ。コア技術は、日本のサッポロビールが開発した微生物による水素発酵技術。ブラジルでは、30年までに車両用燃料の5%を水素にする国家計画を打ち出すなどFCVへの期待は大きい。

昨年末、リチウムイオン電池の共同開発に合意したトヨタとBMWだが、エコカー全般に及ぶ今回の提携で、トヨタのFCV戦略は一気に加速しそうだ。

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