従業員に対して、できるかぎり高賃金・高待遇で報いようとしている社長は多いだろう。しかしその考え方が、かえってトラブルを招くとしたらどうだろうか。

労使トラブルを数多く手がける向井蘭弁護士は、「高賃金が必ずしもいい結果につながるとはかぎらない」と指摘する。

「弁護士になって労使問題を扱うようになり、驚かされたのが相談者の会社の賃金水準でした。低賃金のブラック企業ほど揉め事が起こりやすいと想像していたのですが、実態は逆。相談にくるのは、従業員に高い賃金を払っている会社ばかりでした」

なぜ薄給でブラックな会社より高賃金の会社のほうが揉めやすいのか。低賃金の会社はトラブルが起きないのではなく、トラブルが表面化しなかったり、発生しても長引かないのだ。

「低賃金の会社が、業績不振で手当をカットしたとします。従業員は当然不満を感じますが、同じ賃金水準の会社は世にいくらでもあるし、揉めて嫌な思いをするくらいなら、他の会社に転職したほうが早いと諦めて辞めていくケースが多いのです」

一方、高賃金の会社で手当のカットが行われるとどうなるのか。高賃金の場合、同水準の賃金を支払ってくれる会社がざらにあるわけではなく、転職によって年収を維持できる保証はない。高賃金をキープしたければ、転職するより、待遇改善を求めて会社側と交渉したほうがリスクは小さい。だから、待遇悪化時に揉めやすいのだ。