「狭域情報ビジネス」という新ジャンル

ひとつのストーリーの先に次々と新しい展開が可能になる、話がすぐに終わらない、という意味でのストーリーの拡張性なり発展性もまた、優れた戦略ストーリーの重要な条件である。ストーリーの拡張性は「横展開」のロジックに根差していることが多い。ホットペッパーの戦略ストーリーはこの横展開のロジックを最大限に活用している。

Hot Pepper ミラクル・ストーリー
[著]平尾勇司(東洋経済新報社)

ホットペッパー事業は生活圏ごとの「版」が単位になっている。スタートした直後から成功したのは、東京から遠く離れた札幌版だった。そこで、平尾さんは札幌版とそれ以外の版の違いを徹底的に検証した。札幌版を基準にし、他の版が「札幌に学ぶ」体制を明確に打ち出した。これ以降も、どこかの版で成功した施策は、すべての版に共通のフォーマットに採用され、他の地域版へ横展開されることとなった。「版」を単位とした経営は、横展開を通じて戦略のストーリーの絶え間ざる進化をもたらした。

さらに、ホットペッパーの戦略ストーリー自体がリクルートの他の事業へと横展開可能であった。その後、リクルートは「タウンワーク」や「ゼクシィ」などのメディア事業を地方都市へと展開していくことになる。この背景には、狭域情報のコンセプトを起点としたホットペッパーの戦略ストーリーの横展開があった。平尾さんがホットペッパーでつくった戦略ストーリーは、最終的には「狭域情報ビジネス」というリクルートを支える柱の一つに成長したのである。