Q 普段の仕事は精一杯行っているのですが、会社の業績が伸び悩んでおり、なかなか収入が増えません。消費税が10%になれば、ますます生活が苦しくなりそうです。副収入を得ることを考えているのですが、副業についてどう思われますか?(家電小売、男性、43歳、15年目)


A サラリーマンが定期的に昇給した時代ははるか昔のこと。いまや毎年ベースアップがあるという会社でも、その額はわずかでしかないようです。

とはいえ、今までは長く勤めていれば普通は仕事の生産性も上がるし、結婚すれば妻子を養うために必要なお金も増えた。いつまでも初任給に毛が生えた程度の金額しかもらえないことに焦りや不満を感じ、なんとか現状を変える方法を考えるのも当然のことでしょう。

でも僕はそのために本業以外のアルバイトや副業をするのは、あまりよくないことだと思っています。理由を挙げましょう。

まずエネルギーが分散されて、本業がおろそかになることです。

今年のゴールデンウイークに、高速道路で観光バスが事故を起こし乗客7人が亡くなった、痛ましい事故がありました。あの事故の直接の原因は運転手の居眠りですが、それは会社がコストを下げるために過密な運行スケジュールを組んだせいだと言われています。

でも僕がニュースを見ていて印象に残ったのは、事故を起こした運転手が、会社名義を借り、個人で中国人旅行者向けのバスツアーの仕事を取っていた疑いがあるという部分でした。あの運転手も、いわば一種の兼業をしていたのです。そのことによる疲労や睡眠不足も、事故と関係ないとは言い切れないような気がします。

「自分は本業も副業も、どちらもおろそかにしない自信がある」と思うかもしれません。でも人間の体力、気力には限界があります。自分ではいくら手を抜いていないつもりでも、本業に真剣に打ち込んでいる人と比べれば、クオリティはどうしても劣るものです。

それに副業でできる仕事の多くは、いくら長く続けたところで、キャリアの蓄積にはならない単純作業であることが多い。ということは、時間の切り売りをすることになります。唯一、副業が好影響を与えると考えられるのは、今後のキャリアの「実験」に繋がる場合です。

収入を上げるということは、より多くの人たちの役に立つ前提が必要となります。そのために、職人となって時間単価を上げていくのか、マネジメントの道を志してチーム編成し、自分独りで仕事する以上の成果を狙うのか、基本的には、この2つに1つを極めることになります。

つまり、技術を極めることで生産性を上げ、人の何倍ものアウトプットができるようにするか、自分以外の誰かとチームをつくる術を極めることで、より多くのアウトプットができるようにするのかを決めることからはじまるのです。

最近は「副業禁止」という会社は減っており、会社に分かってしまうかどうかは気にする時代でもないようです。

僕は社内ベンチャーで会社を立ち上げて以来、その会社に籍を置いていたのですが、約10年ぶりにメーカー本体に戻って就業規則を読んだら、以前は確かにあったはずの「副業禁止」の一文が見あたらない。聞くところによると、大手メーカーは、軒並み副業規定の廃止や見直しを行っているようです。おそらく会社も十分な残業代や各種手当てを払えなくなっているため、絶対に副業をするなとは言えない時代背景になっているのでしょう。

だからいま、兼業・ダブルワークをしている会社員はものすごく増えていると思います。

しかしそういうダブルワーカーたちの話を聞いていると、彼ら、彼女らは生活費が足りないからというよりは、「現在の生活水準を落とさないために働いている」という感じがする。それなら副業をするより、給料の範囲内でやっていけるよう、生活を見直して出ていくお金を減らす方が先決です。

その結果、困窮生活になるかどうかはわかりませんが、思い切って貧乏を体験してみると、サバイバル能力に自信がついて怖いものがなくなります。起業家には、若いころ貧乏をした経験があって、「もし失敗してもあの極貧生活に戻ればいいだけ」と考えて一歩を踏み出した、という人も少なくありません。

肝心なのは、副業をしないことで余った時間をどう使うか。本業の時間単価を上げるための活動や、今やっている仕事を人に任せるための取り組みに回したり、自分を磨くために投資したりすることです。遠回りしているように感じるかも知れませんが、そうすることで、いずれ収入の面でも、必ず大きなリターンが得られるようになることは間違いありません。

大きな成果を出している人を観察してみると、ある一定の時期に死ぬほど一点集中で頑張った結果、その時期につくった仕組みがうまく機能してメンテナンスをやれば良いだけ状態になっているため、余った時間を新たな取り組みに割くことができる状態にあったり、その時期の動きが慣性の法則となって努力自体が苦ではなくなったりしているのです。

目先の数万円より、将来の数千万円を狙ってみてください。

※本連載は書籍『プロフェッショナルサラリーマン 実践Q&A』に掲載されています(一部除く)

(撮影=尾関裕士)