会社を潰すまでの一部始終を赤裸々に語った手記には、オフィスに投資しすぎたために倒産したとの声も寄せられる。企業にとってのムダとは、時代にあった経営とは何か。

ビジネスとアートの違いを考えてみる

安田佳生
1965年、大阪府生まれ。高校卒業後渡米し、オレゴン州立大学で生物学を専攻。帰国後リクルート社を経て、90年、新卒採用コンサルティングなどの人材採用関連を主軸とした中小企業向けの経営支援会社、ワイキューブを設立。著書も多く、2006年には『千円札は拾うな。』が33万部超のベストセラーとなった。

【安田】私たちがこれまでとは違う心の豊かさを求めていることは間違いありませんが、「ではそれは何か」と問われると、言語化するのは容易ではありません。いまの消費者に「何を買いたいですか」とたずねても、「特にない」という答えが返ってくるのもそれが原因でしょう。しかし、誰かが提示した世界観に自分の価値観があえば、「それが欲しかったんだ」とすぐにわかります。

誰もが心のどこかで求めている心地よさや素敵だと感じることを最初に提示すれば、そこに人が集まってくる。その図式はすごく「アート」に近いと思います。先ほどの例にあった店先にシンボルツリーを置くクリーニング店もそうでしょう。このようにビジネスはアートに近づいているし、近づいていくべきだと私は思っているのです。

【小阪】その通りだと思います。

【安田】ビジネスとアートの違いを私なりに考えてみると、売れるものや売れそうなものをつくるのがビジネスであり、売れるかどうかはわからないけれども、つくり手が素敵だと思うものをつくり、それを売るのがアートだと思います。ミュージシャンの場合を考えても、売れるとわかっている曲をつくるのではなく、自分なりの世界観を曲に表現したら、「それ、いいね」と賛同してくれる人が集まって、ヒットにつながるわけですから。

【小阪】おっしゃる通りで、精神的充足への願望は、強力だけれどもカタチの曖昧な枯渇感です。消費者の側に具体的なイメージがないのだから、売り手側が「あなたの欲しいものはこれでしょう」と提示してあげる必要があります。

【安田】それを展開するのが、企業の本来の役割じゃないでしょうか。