ここで、「なぜ女性のリーダー育成が急務なのか」という根本的な命題に立ち返りたい。坂野尚子は「男性の優秀層は大企業に採られてしまうので、我々ベンチャー企業や外資系企業は優秀な女性を雇わないと生き残ってこられなかった」と明かす。裏返して言えば、伝統的な日本の大企業は男性だけで事足りていた。それは国際比較における女性管理職の低さでも明らかだ。

ところが近年、グローバル競争が激化し、外国人を含む人事のダイバーシティの必要性が急に叫ばれるようになった。グローバル経営も担える優秀な人材は常に不足気味だ。少子化による労働力の減少を待たずとも、人口の半分を占める女性を活用できない企業に将来はない。

大久保幸夫は、日本企業で女性の活躍が広がらない要因はマネジメントスキルの低さであるとし、「女性ばかりの職場」をつくることに合理性はないと主張する。

「男性と女性で本質的な仕事能力が違うわけではないので、成長する機会と本人の志向で将来が決まります。組織の中核になる男性が経験する、とりわけ30代で経験するような機会を、女性は同じく与えられているのかが非常に重要なポイントです。その後、中核的な部署での課長を経て部長になり、いずれ役員になる。このストーリーに女性がいないことが本質的な問題なのです。女性比率を高めて形だけ整える施策ではなく、そろそろ本質的な課題に取り組むべきときがきているのではないでしょうか」

中核的な部署とは、経営企画部・財務部・営業本部・研究開発部・主力工場などだ。これらのトップに女性社員を据えている大企業は皆無に等しい。トップを狙えるような課の課長職を務める女性も少ない。また、女性ばかりの職場で働いた経験が、組織の中枢に向かうストーリーの一部になるとは筆者には思えない。

雇用ジャーナリストの海老原嗣生も同調する。「この施策が、男社会を壊してまで女性を引き上げていくのは面倒だから、どこか一カ所に集めるという考えでとられたなら危うい。女性の管理職比率を上げないと世間の目が厳しいから4R+2Rと呼ばれる部署に女性を集めるのと同じ発想です」。

4Rとは、人事(HR)、経理(IR)、広報・宣伝(PR)、そしてカスタマーリレーション(CR)の俗称。これに秘書(Secretary)と受付(Reception)を合わせて6Rと呼ばれる。