伊藤忠商事社長
岡藤正広

伊藤忠商事の繊維部門は8期連続の最終増益を達成(※雑誌掲載当時)。その部門トップだった岡藤正広氏は、アルマーニの販売権獲得など辣腕をふるい、数々の大型プロジェクトを大成功させた伝説の営業マンだ。

私は商社に入ってからは営業畑の人生で、常にライバル商社との戦いでした。

「喧嘩一筋」のビジネスだったといえるかもしれません。その中で痛感したのは、営業で一番大事なのは話がうまい、下手ではなく、消費者や交渉相手の動きを肌で感じる現場主義ということです。

とくに浮き沈みの激しい繊維の世界に私は長いこと身を置いてきましたが、なかでも財閥系商社やデパートなど数多くのライバルと競うファッションブランドの争奪戦は熾烈なものでした。

例えば、イタリアの高級ブランド・アルマーニが進出する際もデパートと激しい戦いを繰り広げて販売権を勝ち取りました。負けたデパートのカリスマ経営者は、その年の幹部を集めた忘年会で、「アルマーニのブランドを取られる失態を演じた。ボケッとしてるからだ」と激怒し、幹部らは悔し涙を流したと言われるくらい壮絶なものでした。

ブランドビジネスの決定権は女性にあり

このアルマーニのときの勝因もやはり現場主義でした。出向で経団連に来ていたイタリア人の父親が、現地でコンサルタントをしていることを知って親しくなり、その人を通じて、アルマーニの重要人物に日本進出にあたって何を重視するかを聞いてもらった。するとイタリアは税金が高いので節税に関心が高く、日本の税法を詳しく知りたいということだった。ライバル社は、取扱高や出店の立地といったことに関心が高いはずという一般的な考えにとらわれ、そうした点を中心に提案したんでしょう。ところが私は現地のコンサルタントの情報から節税を中心としたプロポーザルを行い、契約を結ぶことができた。顧客が何を欲しているのか、自分であれやこれや類推するのではなく、現場から情報収集することで答えが出てきます。