原子力災害はいわば“終わりなき静かな惨劇”である。家も財産も、そこでの暮らしもすべて失い、助かった命だけを拠り所にやり直そうとしても、その土地で穫れた農産物には「危険」のレッテルが貼られる。さらに、被曝したことで徐々に身体は蝕まれていく。

福島第一原発の事故勃発以来、出荷減による農家の被害は深刻で、JA茨城県中央会の試算では、県内で1日3億円という。土地に残留する放射性物質の濃度を正確に判断する基準もないまま、野菜や生乳は打ち捨てられた。因果関係が明らかであれば、風評被害は原子力損害賠償法の補償対象となる。文部科学省は、被害認定の指針を定める原子力損害賠償紛争審査会を近く設置するが、長期化が必至だけに指針は当面、固まるまい。

いうまでもなく、原発事故の補償の対象は、生業に関わる被害が目立つ農家だけではない。生活と仕事と健康を損なわれたすべての被害者は今後、事故責任者である東電を訴え、間違いなく長期にわたるであろう裁判に踏み込まねばならない。裁判では「被害実態と原発事故の因果関係の証明」を求められる。容易に結審するものもあれば、一生かかっても納得できる結果が得られない場合もあるだろう。

目先の資金提供のため、JAバンクは被害農家向けに緊急で原則無利子のつなぎ融資を行う(最大2000億.3000億円)。4月中に損害賠償金の仮払いを行うと報じられた東電(同社は否定)は、避難指示のあった九市町村に対し、一律2000万円の見舞金を支払った(福島県浪江町は拒否)。

東電には当然、莫大な賠償額が科されるべきだが、その不足額は政府が税金から補填することになる。原賠法に基づく賠償には、茨城県東海村の臨界事故(1999年)の前例がある。当時、事故を起こした核燃料加工会社JCOが負った損害賠償額はわずか150億円。そんな額ではとても足りない。